ワタクシは混乱し始めていた.誰も居ない,何もないスラムから,角をヒトツ曲がっただけで,立派な議事堂や教会が立ち並ぶモダンなストリートになってしまった.その余りの変化に,神経がついてこなかったのだ.議事堂の前に立てられた,この街出身の元大統領ジミー・カーター銅像の前を横切り,ワレワレは歩いていく.
「この先にコカ・コーラミュージアム*1があるあらぶ.ヒトがわんさかいるあらぶ」
その先にある光景を,自分は見てはいけないような気がした.同時に,見なきゃいけないような気がした.だが引き返さなきゃならない理由もない.嫌な予感を抱えつつも,ワタクシはカリールについて行く.
そして,さっき曲がったスラムの交差点から,次の交差点に差し掛かったとき…
全てが,変わった.
コカ・コーラミュージアムの入口で順番を待つ観光客の行列.立ち並ぶ巨大な建物.広場には出店が並び,ストリートパフォーマンスがそこかしこで繰り広げられ,子供たちがはしゃぎ,幸福なヒトで溢れかえっていた.特に広場の一角で行われていたイベントが,ワタクシの注意を引いた.
黒人のアーティスト数名による歌とラップとダンス.そして彼らは最後に,観客もステー上がって一緒に踊るコトを求めた.二,三十人の観客達が求めに応じてステージに上がる.踊る.黒人も白人もアジア系も,皆一緒に,モノスゴク楽しそうにしていた….
「コレが自由の国アメリカだ」と,ワタクシは思ったかもしれない.…さっきスラムを歩いてなければ!!
ワタクシはパニックになりそうだった.まるで現実感がナイと感じた.さっき歩いていたスラムから,ほんの100mも離れていない.ドコを見ているか分からなかった若者を見たのは五分前の話だ.
この違いは,何だ.
ワタクシは今自分の周囲に広がっている光景を信じられなかった.さっき通り抜けてきた光景が信じられなかった.悪い夢でも見ているような気がした.
でも,…
思考停止に陥りそうな頭を振って,何とか踏みとどまる.さっきの若者はウソじゃない.今楽しそうに踊っている人たちが,本当に楽しんでいるのも,間違いなく事実だ.つまり…ワタクシは自分に言い聞かせた.
コレが,現実だ
コレが,現実だ
コレが,現実なのだ
そしてコレが,この国なんだ.と.
…続く

*1:アトランタはコカコーラ発祥の地でもある