モノスゴい文章を見つけた

ある夕方 お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた 坂道で靴のひもがとけた 結ぼうとしてうつむくとポケットからお月様がころがり出て 俄雨に濡れたアスファルトの上を ころころころころ どこまでもころがっていった お月様は追っかけたが お月様は加速度でころんでゆくので お月様とお月様との間隔が次第に遠くなった こうしてお月様はズーと下方の青い靄の中へ自分を見失ってしまった


参った,としか言いようがナイっす.「ポケットの中へ自分を入れて」なんて主体性をまるで無視してるけれど,よーするにソレは自分で勝手に分かったツモリになっている自分の姿? でもソンナモノはふとした拍子に転がり落ちて,分からなくなってしまう.そして「本当の自分の姿」を,捉えようとすればするほど,それはどんどん離れていってしまう…


存在の不確実さ,脆さを,こんな形で表現できるんですか.戦前にこんなものを書いた日本人がいたのかと,目を開かされた思いのする今日.