モトカノのハナシ.その5
そして「二人の間に何もない」日々が何年も続いたその後で,彼女は平気で「話せてよかった」という言葉を投げつけてきた.
「オレも,話ができてよかった」
昔なら,ワタクシはいつも必ずそう返して,お互いの重要性を確認し合ったものだ.そして大晦日に友人の電話を介して話した後のメールの返事として,彼女がワタクシに求めるものは,まさにその言葉だった.その言葉さえあれば,過去の全てを水に流して,恋人として付き合う以前の,「親友」と呼び合っていた頃のワレワレ二人に戻ることができる――
彼女は,そう信じている.
どうして彼女は,考えてみないのだろう.三年前の出来事以来,彼女がワタクシの信用を失っているかも知れないという可能性を,少しでも・・・
いや,彼女は無意識のうちにその可能性があることを知っている.だがその結末を知るのが怖くて,それによって予備校時代から続いた6年間の思い出が水の泡と消えてしまうのを認めたくなくて,だから自分からワタクシに連絡を取ることができない.彼女はそこから目を逸らし続け,何かの機会に会うなり電話で話しさえすれば,昔の時間がもどってくるはず,…そう思い込もうとする.そしてそれを,頭の中で「私はケンを信じている」という言葉に変換する.信じているのに自分からは連絡できないというのは,背理なんだけどな.
ワタクシに大切にして貰いたいモトカノ,モトカノが必要ではなかったことを知ってしまったワタクシ.変わらぬモトカノ.変わってしまったワタクシ.このギャップが埋められない.今のままでは,ワタクシは彼女とコミュニケーションすることができない.つまり,「あの頃」は,ゼッタイに戻ってこない.
どうして,フツーの友達ではいけないのだろう――.
「話せてよかった」というモトカノからのメールを見ながらそう思っているワタクシに,彼女へ電話した友人がニヤニヤしながら言った.
「さっき電話して今ケンと飲んでるっつったら,『ケンがいるなら代わって』やとさ.気になってたんちゃうかぁ?オマエのことが」
ワタクシは溜息を吐いて,彼女に返信した.
「おー,またな」
とだけ,書いて.