九年の後に

ワタクシの予備校時代の友人のヒトリは,三年浪人した末に医学部に合格したものの,大学三年のときに交通事故で即死した.そのデキゴトに歯車が狂い掛けていた人間がいた.彼の,弟だ.


彼は現役のときにある私立大学の医学部に合格したが,経済的な理由で浪人した.彼の兄が「ナニが何でも医学部」だったのに対し,弟は「まあ,何となく,医学部?」というカンジで,気楽に生きてる性格だ.その兄が医学部に合格して家族も親戚も大喜び.弟はますます一族への義務や責任からは無縁になれた・・・はずだった.


それが,兄の死によって一変した.家族や親戚も,弟に兄の代わりを求めるような雰囲気になってしまった.兄を失った痛手,無言で加えられる周囲からのプレッシャー.加えて,自分が本当に医者になりたいのかどうか自信がない.


そして彼は受験に悉く失敗し続けた.


「アイツは一族の出世頭やったのになぁ・・・」


という父親の言葉は,辛かったらしい.もしも兄の死と私立大医学部の合格の順番が相前後していたら,こんな苦労をすることもなく自分は今頃医学生を決め込んでいられたかも知れない,とも思ったかもしれない.


そんな時間が九年も続いた.よく耐えたよなぁ.それだけでも偉いと思うよ.


まさゆきくん,合格おめでとう.


肉体的にはこれからの方がシンドイだろーけど,精神的にはラクになるよね.昨日お袋さんに電話したら安堵感満ち溢れる声だったよ,終始.医学部がどーのこーのじゃなくて,


「これであの子も解放された」


ってカンジだった.これからどーなるかなんて誰にも分からないけれど,とりあえず,うん,良かった,ヨカッタ.