我凡人也

昨日知人がメッセで話しかけてきた.今年度から働き始めた新(?)社会人.会社で怒られてばっかりで,凹んでいるとか.ふうん.辞めたければ辞めればいいと思うのだが,その前に多分,彼には考えてみた方が良いことが沢山あると思った.まずは,ラッセルの言葉.

自分を過大評価する者は失敗したときに驚くが,自分を過小評価する人間は,成功したときに驚く.前者の驚きは甚だ不愉快であるが,後者の驚きは極めて愉快である.


自尊心の強い人間は,入社一年目からバリバリ働き,成果も挙げて会社のホープとして活躍するイメージを描きながら社会人生活に入る.当然のことながら,それを実現できる有能な人間は非常に少ない.つまり,自身が有能な人間である確率は非常に低いため,ほとんどの「成功イメージ」は敢え無く挫折を喫することになる.自己を過大評価する者は,自己の不幸をも過大評価してしまう.やる気は殺がれ,「社会は厳しい」という言葉をこぼしながら一人で落ち込むことになるのである.


自分を過大評価してしまうことを注意深く避けようとする者,つまり「自らが凡人であると知っている人間」は,彼とは異なる対応を取るだろう.入社一年目は分からないことばかりなのだから,失敗するのも当然だし,怒られることも一度や二度では済まない.それでもその会社で働いていくわけだし,とりあえず仕事を上手くこなす人の真似をしていこうとするだろう.慣れてくれば失敗も減るし,怒られることもなくなってくる.そういう態度で数年働き続ければ,彼は恐らく上位の業績を上げる企業人になっているだろう.


塩野七生はこう言っている.

自らが凡人であることを悟った者は,既に凡人ではない.


そんな話をするとしかし,彼はこう言った.
「でもオレは凡人以下っすよ」
「なんじゃそりゃ」
「オレまだ全然営業マンとして自立できてないっすもん.親のスネカジリみたいな気分っすよ」


コイツ,人の話を聞いているのか,と思いながらもう一度繰り返す.


「そういうことは,入社後たったの半年で自立できるサラリーマンが世の中にどれくらいいるか,考えてみてから言うんだな」


自分で自分を天才だと思う人間なんてほとんどいない.才能が平凡なら物事を学ぶのにも時間がかかって当たり前のはずなのだが,それでも人間は短期間での大幅な成長を望む.それも,単に他人の尊敬や賞賛が欲しいがために.


上に書いた内容の話を理解できない人は多分,ほとんどいないだろう.でもそれを実践できる人の数もまた,少ないのが現実だ.仕事を通して幸福を獲得できる人は,どれくらいいるのだろうか.