今いちばん叶えたいこと.

またしばらく三国志に没頭していると,今度は今の研究室で僕がっもどかしく感じていることが頭に浮かんできた.今の研究室における僕に対する待遇に不満はない.必要な機器や試薬はほぼ要求どおりに購入してもらえるし,何人かの学生の面倒も見て欲しいと言われている.上からは期待も信用もされているのは明らかに分かる.だが,その面倒を見ろ,と下に付けられた後輩達が問題なのである.いや,後輩達本人に問題があるわけではない.ただ,それぞれの研究テーマの方向性が,まるでバラバラなのだ.


僕が直接に関わっている後輩は三人.僕も含めて,イネの「mPing」というトランスポゾンに関わる研究をしている.しかし三人に共通しているのはその根幹部分だけで,研究のテーマは三人とも全く別の研究だと考えていいほど関連性がない.つまり,一人の実験データを別の人間が共有して使うことができないのである.だから,後輩達はお互いの実験に対して大した興味も持っていない.また仮に僕が一人の後輩の実験を手伝えば,その間僕の研究は完全にストップしてしまう.そして次の後輩が相談に来たときには,また全く別の視点で考えなければならない.僕は一人で,全く異なる3つのプロジェクトに関わっているようなものなのである.これでは投入する労力ばかりが大きくて,上げられる成果は微々たるものに過ぎなくなってしまう.効率が悪いのだ.
逆に,全体としての方向性が一致していれば,一人の実験データが他の人間にとっても役立つ,ということになる.そうなると,僕が誰かの実験に手を貸した場合にも,その利益は全員が受けることになる.自分以外の人間の実験の進行具合は,自然と気になるだろうし,誰かの実験が滞った場合は全員でサポートする,ということも可能になる.お互いが,お互いの実験データを必要としているからである.
だが後輩達三人のうち二人は,僕が居ない間に上から与えられた研究テーマで1年,2年と実験を続けてきたのだ.いきなり研究テーマを変えさせるわけにもいかなかった.ただ,一人は,僕がアメリカから戻ってから研究室に入ってきたので,その後輩のテーマは僕が決めた.当然,僕の研究テーマと関連付けたものになっている.彼女の実験指導をしているときは,やはり僕の態度は他の後輩二人と比べても違ってしまう.彼女のデータが,僕の研究成果をも左右するからなのだ.


次に頭に浮かんできたのは,学部生時代に関わっていたNGOでの経験である.僕はそのNGOの財務局長だった(僕が経理なんて信じられないかも知れないけど).当時は平成大不況の真っ最中で,企業からの賛助金を悉くカットされた.財政事情はどん底と言ってよかった.
僕はまず,局員で仕事を分担させた.他局の資金繰りをチェックする役割,全体の帳簿を管理する役割 etc... 要するに,一人一人の仕事の内容が局員全員にとって重要な意味を持つ,という状態を作った.局員達の頑張りもあってチームは完璧に機能し,一年で財政を立て直すことに成功した.規模としてはそれほど大きくはない組織だったが,それでも毎週ミーティングをしてそれぞれの資金の動きを確認し,立て直しのために必要なことを考え尽くして次の指示を出す,という日々は充実していた.ミーティングが終わったら一緒に飯を食った.たまに全員で飲みに出かけた.一年を通じて,局員同士の個人的な結びつきも強くなった.


あ,と思った.僕の中で,全てが瞬時にして一本に繋がったのを感じた.


チームとして研究がしたい.方向性を統一し,お互いの実験データを共有し合いながら,研究を進める.定期的にミーティングは開くが,誰かが面白いデータを出したらすぐにチーム全員が雁首揃えて議論が始まる.週末には飲みに行く.そういう毎日は,充実感を得られそうだ.もちろん大発見ってものをしてみたいとは思う.だが,大発見に向けて一人で努力を続けるには,大変な精神力を必要とする.しかし毎日が充実したものなら,努力を続けるのはそれほど苦痛ではない.


今,いちばん叶えたいこと.自分で研究プロジェクトを立ち上げて一つのチームを作り上げること.


そのためには,出世しなきゃ.卒業してもしばらくはアメリカでポスドク,つまりは「チーム1人」なんだけど,そこで大きな成果を挙げることが,「チームないとぅー」実現への近道なのだ.そう思えば,やる気も出てくる.ってゆーか出てきてるんですよ.今.


だから,まずは,何よりも,博士論文を,仕上げる.