敵わないが,勝負しないわけにはいかない.いや,勝負はしない.

その後輩がゼミの題材に選んだのが,ジョージアで同じボスの下で研究していた中国人ポスドクによる最新の論文だった.PLANT CELL,植物分子生物学のジャーナルでは最高峰だ.


彼の取り組んでいる実験が上手くいった,大成功じゃないか,おめでとう・・・そんな話で研究室中のテンションが上がったのが,僕が帰国する直前のことだった.そこから,もう出版に漕ぎつけている.僕など論文を書き始めてから出版までに一年半を要したというのに,全く素早いものである.やれやれだ.


彼が研究室にやって来たときから,こいつは半端じゃないと思った.植物体を使った実験は勿論のこと,酵母の形質転換を用いた実験系も扱えるし,おまけにデータベースを検索するプログラムのスクリプトを自分で書くことまで出来てしまう.そのスキルやノウハウに関して,僕は足元にも及ばない.それが僕の実力なのである.


技術じゃ敵わない.状況は僕にとって明らかに不利である.
ではどうやって対抗すればいいのか?


と,ここで対抗してやろう,などと考えてはいけないのである.


彼ほどのテクニックがあれば,スマートでクールな方法で研究を進めることができる.つまり,面倒な実験は敢えてやろうとはしない.技術で敵わないなら,力技でいけばいいのである.何だか一昔前の日本人臭さ全開なな感じでカッコ悪いのだが,アメリカ人や中国人に比べれば僕の手先は遥かに器用だし,大量のサンプルを徹夜でこなすような,そういうやり方なら僕は出来るし,嫌いじゃないのだ.そしてそういう力技の結果,僕でもGENETICSやPNASに論文を載せることが出来たのだ.


別に僕が一人で,彼以上の研究者になる必要などないのである.一人で何でもできる研究者なんて羨望の的には違いないが(実際羨ましくてたまらない),そこそこの実力があれば研究者として十分生きていけるし,足りないところは平気で他人の力を借りていけば,案外凄い成果が出てしまうこともある.何より,僕の最大の武器は外向性ですからね.「研究なんて一人で実験室に篭ってやるもんだ」っていう偏見なんかには絶対捉われてやらない.


さあ,絶対作るぞ,チームないとぅーを.