いじめによる自殺があるのは日本だけだ?

「私が海外にいたときは苛めによる自殺なんて聞いたことがない――」
そんな言い草が目に付く最近.目にする度に本当に萎えますよ僕は.


確かに僕がアメリカにいたとき,苛め⇒自殺なんてニュースは全く流れなかった.でもそれは果たして,アメリカに苛められて自殺をした生徒がいないことを示しているのだろうか.そうではなくて,アメリカでは自殺なんてニュースにもならないだけではないだろうか.アメリカでニュースになるのは,苛められた人間が爆発して,社会に対する暴力的な復讐(銃を乱射するとか)を敢行した場合だけではないだろうか.


キューブリックの映画に「フルメタルジャケット」というのがある.ベトナム戦争を描いた映画で,前半部では新兵の激烈な訓練の様子を描いているのだが,その新兵の中にいわゆる「デブでズブ」が1人いて,ことある毎に周りの人間の足を引っ張ってしまう.そして彼は苛められ,訓練の最終日にライフルで自分の頭を打ち抜いてしまう.


これは,「苛めによる自殺」というモチーフがアメリカにも存在することを示しているのではないだろうか.


ギリシア神話の「トロイア物語」の序盤にも,こんな場面がある.貴族階級で周囲の期待を背負って立つべき立場にあった若者が,城壁で首を吊って自殺する.彼は人の上に立つべき人間であるにも関わらず,優しく臆病な性格のせいで,戦場では逃げ回る以外何もできなかった.そしてそのせいで共同体の人間達は彼をあからさまに軽蔑した.要するに苛めたわけだ.


古代ギリシアの神話にさえ,「苛め⇒自殺」のモチーフがあるわけですよ.


だとしたら,苛めによる自殺が起こることは「日本社会の問題」なんかじゃなくて,それこそ「人間の問題」だということだろう.だから構造の議論なんかする前に,自分が苛めた経験を反省して,それを子供に伝えられる人間になろうよ.