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「あとテレビ見てたら飲酒運転が増えたとか,汚職が増えたとか言うてるけどさ,どれも別に今になって出てきたことちゃうやろ.昔からあったことやん.でもテレビの傾向に合わせたように『やっぱ飲酒はあかんな』とか言うのとか,それは自分で飲酒があかんと考えてるつもりなんやろけど,実はテレビにそう思わされてるだけみたいな感じがするやん.そう考えてからテレビ見んようになったんやけど」


そうだな.自分が考えていることが,本当に自分が自分で考えたことなのかどうかとか,本当に疑わしいと思うよ.そう言いながらも,僕は驚かずにはいられなかった.弟の洞察は,既に「主体性」を疑うところにまで到達している.その疑いを抱いていることについては僕も同じだが,僕が仏教や哲学やその他の分厚い書物を何冊も読んでやっとそう思えるようになったところを,弟は大して他人の考えに頼りもせずにそのレベルに達している.昔から思っていたことではあったが,やっぱり弟は僕より遥かに頭がいい.


「いや,ほんでな,じゃあ俺の価値観なんてメッチャ微妙なもんやん?テレビとか社会の価値観に影響されんのが嫌やっつって,勝手なことができるわけでもないやん」


日本で二股三つ股ってのはしんどいし,敵が増えて生きにくくなるからな.


「というわけで,結局俺は打算的な人間やなと.」


そういう考え方は正しいと思うよ.でも打算って言うよりはバランスって言うんだよ.
だが,考え方のプロセスが僕と弟とでほとんど違いがないことには驚くばかりだった.弟とではなく僕自身と話しているような気がしてくるほどだった.


・・・続く