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「仕事でもさ,周りの人間見てるとよう分からんことが多いねん.上司とか顧客の担当とか,まあ嫌なヤツがおったとしてもおべっかの一つも使って気持ちよくなってもらっといたらこっちも上手くいって気持ちええやん?せやけどそれが出来んで落ち込んだりとか辞めてったりとかしよるしなー.『自分が正しい』って思うのは分かるんやけど,けどその正しい自分ってのが分からへん.・・・まあでも俺が本気で仕事しようっていう気がないことも部長には見透かされてんねんけど.『真剣さが足らん』言われてるわ」


はは.でも人には先に優しさを配った方が結果的に得するんだよな実際.直接的な見返りなんか期待しなくてもさ.


「損して得取れゆう話や.でもそうするとやっぱり,最終的に自分が得するっていうのが分かってやってるってところが打算的やん」


まあその通りだな.僕もやっぱり打算で生きてると言ったほうがいい気がしてきた.


「けど人が笑ってんのが気持ちええとは言ったけど,そこは俺が笑わしたった,っていう感じが欲しいねん」


分かるよ.寒いところで炊いた火みたいになりたいんだろ.それで回りは暖かくなるけど,自分がいちばん暖かいんだぞと.


「上手いこと言うな.」


昔考えたんだ.


「んでまた仕事の話に戻るんやけど,俺はやっぱそんな真剣に打ち込むようなこととかなくて,だから睡眠削るほど研究に没頭できる兄貴とかがメッチャ羨ましかったりすんねんか」


本当かよ.お前が僕に対してそんなことを思ってるなんて夢にも思わなかったよ.でも僕は僕でお前が唯一尊敬できる人間だと思ってるし,実際友達とかにも堂々とそう言ってるんだよ.お前は打ち込めるものがないなんて言うけれど,お前は本当に遊び方を良く知ってて,それをずっと見習ってきたけれど,未だに敵いそうもない.僕にはその方が羨ましいよ.


・・・続く