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「そうなんや.まあ確かに土日は絶対譲れへんところやけどな.職場でも仕事に命賭けてるくらいの人がいるけど,俺はそういう人にはなれへんわ.私服とかバイクには幾らでも金掛けられるけど,スーツには無理やわ.」


だからお前は楽しく生きれたらいいと思ってるんだろ.だから社会的に成功するとか尊敬されるとか,特別そんな風になりたいわけじゃない.


「いや,なりたいで」


そうじゃなくてさ.そりゃ,僕だって尊敬されないよりはされた方がいいよ.でもそのために色んなことを犠牲にしなきゃいけないと思うと,高くつくなと思ってしまうんだろ.


「そうやねんなー.仕事でも,今やってることの一歩先くらいまでは読めるねん.けど更にその先までは考えられへん,というか,考えようという気にならへんねん.」


結局仕事に命賭けたいやつは掛けたいんだし,お前はそうじゃないんだからそれで済ませておけばいいんじゃないのか.


「でもそれやったら一生懸命やろうとしてる人に対して何か申し訳なかったりするから,まあ一応同じ土俵に立ってるフリはしてるけど」


十分だろ.


「でも何かやっぱりなー.例えばな,俺が担当してる顧客会社でウチの人材が辞めてもうたり*1すると,顧客に対しては俺がお薦めした人材やから,やっぱ俺が責任取らんとあかんし,頭下げるやん.けど元を辿ると,その人材はウチの人材担当が挙げてきたヤツやから俺は推薦したわけやん.せやから今後の会社のためを本気考えるんやったら,俺は人材担当とも話をして,アイツが辞めてしもたんやけど選定するときに何か問題点がなかったかとか,そういうことをするのが最善やろうとは思うねん.でも俺は何か面倒臭くなってもうて,結局自分が責任取っといたらええかと思ってまうねんな.打算やわ.」


だけどお前,人の問題点を指摘して改善させることにどれほど莫大なエネルギーが必要かを考えれば,お前の判断は全然まともじゃないか.


「こういう感覚を理解してくれる人間とかあんまおらんねんけど,仕事のために最善の努力をしないことに対して,『まあ俺はそういう人間じゃないからな.』って考えるのは,俺はそうやって自分を守ってるんやなと.けどその守ってる『自分』ってのがやっぱり分からん.」


お前その「自分を守る」ってのは正しい考え方だよ.僕の友達にはあれもこれも頑張らなきゃ「いけない」と考えてる奴が多くて,精神がパンクして鬱になった人間もかなりいるからね.あいつらは自分を守る方法を知らなかったんだ.


・・・続く

*1:弟の仕事は人材派遣会社の営業