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「俺,欝とか絶対理解できへんわー.楽しくない時間とか過ごしたないやん.自殺とかも,『お前死ぬほどの思い切りが持てるんやったらもうちょっと他に何かできるやろ』と思てまうねん.」


欝ってのは心の病気だけど,同時に脳の病気だからな.ネガティブな神経回路ができてしまったら最後,簡単には脱出できないもんだ.逆に一旦回路がポジティブに回りだしたら復活できるんだけど.大体今の日本人の10人に1人は欝だと言われてるし,女の人なら4人に1人は欝だよ.


「うん・・・.けど俺は絶対欝にはなられへんと思うわ」


それはどうかな.お前さっき土日の遊びが命とか言ってたけど,それは遊ぶ手段があるってことが前提になってるだろ.もしお前が今の彼女を失って,おまけに今の遊び仲間が全員結婚して休日の相手もいないとかいう状態になったらどうかな.


「あっ…それはブルーやわ.何や,俺も欝になれるやん!」


喜ぶところか…? 


「でも例のあのコとか,俺がちょっと見ただけでも何かおかしなってるって思うねんけど,アニがそういう欝になってもうた友達とかちゃんと相手してんの見て,正直見直してんやん.俺,アニってもっとドライな人間かと思ってたわ.俺は欝んなった人間とか絶対相手できへんし.身近にそんな奴ができたら面倒臭くて切ってまうと思う」


そうか.まあ昔は本当にドライだったしな.でも僕だって結局,友達を大事にしといた方が結局得になることが多いと思ってるからそうするだけのことだから,所詮打算なんだと思うよ.


「でもアニ,おかんにはもうちょっと優しくしたろうや」


それなんだけどな.他の人に対してだったら,必要とあらばお前みたいに「損して得取れ」の対応ができるけど,お袋にだけはだめなんだ.一緒にいると自分でも嫌になるくらいストレスが溜まってしまう.


「まあ分かるで.おかんとかほんま他人のこと気にしよらんし.言わんでええこと言うて,しかもそれを全然気にしとらんいうところがあるから.けど,もうちょっと何とかできるやろ」


それなんだよ.そこがお前が本当に凄いと思うところでさ.でも同時にお前とお袋と3人でいると,お袋に対して邪険になってしまう自分の欠点が,余計に意識されてしまって,それで余計にイライラしてしまうんだ.でも一歩そこから離れて考えると,僕の周りにも親といるのが本当にストレスだ,って言う友達の方が多いくらいだし,それに比べれば僕は寧ろよくやってる方らしいんだよ.だからもうおかんに対する自分に関しては,かなり諦めてるんだけど.


「まあその通りやけどなあ.っていうか,俺はやっぱり,おかんに負い目があるからな(笑).中学んとき原チャ燃やして裁判所行きとか,あり得へんで(爆笑).PTA会長の娘まで巻き込んで(大爆笑)」


あははは,そう言えばそうだった.僕は逆に,若い頃に親孝行,親孝行って頑張り過ぎたのかもしれないな.


・・・続く