「バカの壁」と「国家の品格」

理系の研究者として権威的な二人のベストセラー.これがアマゾンの書評(ここここ)ではかなり酷評されている.この二冊をお読みになった方々はどのような感想を持たれただろうか.

バカの壁 (新潮新書)

バカの壁 (新潮新書)

この著作の冒頭で,著者が東大で担当していた授業で出産の様子を撮影したビデオを見せたときの話が語られる.授業後に書かせた感想では,ほとんどの女生徒が「知らなかったことばかりで,本当に勉強になった」と書いていたのに対して,男子生徒は概ね「高校までの保健体育で習ったことばかりで詰まらなかった」と書いたそうだ.女生徒が「知らなかったことが沢山あった」と言う同じビデオを見てるはずの男子生徒が「知ってることしかなかった」とは,どういうことか? 入ってきた情報のすべてを既知の情報として処理してしまい,大切なことに気付かない.そこに「バカの壁」がある.そんな話だ.


僕はこの部分を読んで苦笑した.これは「巧妙な踏み絵」だと思ったからだ.養老孟司にしてみれば,「これから私が書く話は男子生徒にとっての出産ビデオみたいなものだから,この本の内容をバカにする奴は『バカの壁』を超えられないバカだぞ」というわけである.だからこの本をヘタに批判してはいけない.世間に溢れるこの本への批判を見て,養老孟司はニヤリと笑っているに違いない.


国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)

この著作も,最初はこんな話で始まる.

私は,自分が正しいと確信していることについてのみ語るつもりですが,不幸にして私が確信していることは,日本や世界の人々が確信していることとしばしば異なっております.もちろん私ひとりだけが正しくて,他のすべての人々が間違っている.かように思っております.
 もっとも,いちばん身近で見ている女房に言わせると,私の話の半分は誤りと勘違い,残りの半分は誇張と大風呂敷とのことです.


これは「これから私がする話はパロディです」と言ってるようなもんである.実際内容は極端なことを断定的に言い切ってるわけだが,それも多くの知識と深い教養なくしては放つことの出来ない絶妙の「ユーモア」であろう.


というわけで,本書を諸手を挙げて絶賛してるような人間は話にならないし,大真面目に批判するのも馬鹿馬鹿しい本である.軽く読んで,クスリと笑い,自分なりに「品格ある国家」を考える.そういう本だと思う.