変われぬ人

二年ほど前に,毎日のように相談相手をしていた相手が,久々にメッセで話しかけてきた.彼女は二年前と全く同じことに悩んでいた.僕は二年前と同じことを質問し,彼女は同じことを答えた.あまりの変化のなさに,僕は唖然としてしまった.
二年前,僕は彼女に向かって何を話していたんだろう.彼女の苦悩に関する限り,僕は何もしなかったに等しい.とはいえ,未だに彼女全然成長できていないのが僕のせいだというわけでは勿論ない.


彼女は大切なものを大切にすることができない.彼女が大切にするのは,自分が好きなものに対して持っている「美しいイメージ」であって,大切なものそのものではない.そして彼女はその「イメージ」を守るために,好きなものそのものの方をなおざりにしたり,好きなもの本来の姿を知ろうとせずに距離を取ってしまう・・・という事態に陥る.彼女が大切にするのは飽くまで「彼女の世界」であって,そこに変化をもたらすような「新しい情報」は拒否する.これでは彼女は,いつまでも,どこまでも,独りである.


彼女の周りにはいつも男共が群がっている.知的で外見も整っている彼女は確かに魅力的だ.だが彼らは全員,彼女の興味を惹くことばかり考えているイエスマンだ.彼らには,彼女に欠けているものなど見えやしない.だが自分を揺るがす意見を真正面から受け止める勇気も,彼女は持たない.


世界の変化を認められない人間が,自分を変えることなど,どうして出来るだろう.

今あるものを失ったらどうしよう,と考えている人間に向かって,未来を告げることはできない.
未来とは,今ある何かがなくなり,今はない何かが生まれることだからだ.

――村上龍「KYOKO」――