許せないこと

金曜に逆上してしまったのは,こういうことだ.実験室での作業中,問題の後輩が僕のところへやって来て,言った.


「明日のパーティーに使う食材を買ってきたんで冷蔵庫を使いたいんで,内藤さんの食材を動かしていいですか?」
「あー,じゃあ先生らの部屋にある冷蔵庫に移しといてや.」
「その先生の部屋の冷蔵庫もいっぱいになると思うんですけど」
「えーっと,ほなどうしよう?」


と僕は少し困ってしまったのだが,後輩は「そういうことなんで」と言い残してスタスタと去ってしまう.ここでまずカチンときてしまった.冷蔵庫を空けなければならないのは仕方がないが,といって不利益を喰らう僕に対するケアが全く感じられなかったからだ.


で,冷蔵庫から追い出された僕の食材は,外に出しておくだけでいいかと思ったが,この土日は大学に来ないのでそれはまずい,じゃあ持って帰るしかないか,と考えていたら,思いついた.種子貯蔵庫なら低温だしオッケーじゃないかと.そういうわけで僕は作業を中断して学生部屋に赴き,さっきの後輩に向かって言ったわけだ.


「冷蔵庫,どうしても空きがなかったら俺の食材とか種子貯蔵庫に移しといてくれる?」


後輩は言った.


「え,あたしがやるんですか?」


これが二つ目のカチン.


「なっ…俺がそこまでせんとアカンのかよ!?」


自分で自分の声にイライラが表れているのが分かってしまう.うー,いかん,と思ってるところへ,後輩が言う.


「だって,みんなが使うんですよ」


目の前が赤くなるほど頭に血が上ってくる.「みんな」という言葉.そこに含意されるのは,多数派という名の権力なのだ.内藤さんは従わざるを得ないんですから,自分のものは自分で守るしかないでしょ,当然,そのせいで内藤さんがどんな不利益を被ろうと,私の知ったことではありません.そういうことなのだ.


正直言って,僕の食材なんて野菜ばっかりで値段にしても数百円分でしかなかったのだが,問題はそういうことじゃない.権力構造に寄りかかり,立場の弱い人間に対して強制し,強制された側の気持ちを顧みない.それが教官だろうが後輩だろうが友人だろうが,そういうパターンで行動する人間を,僕は許すことが出来ない.