つくばへごー 2

筑波二日目.午前中はマイクロアレイ,前日の続きである.最後に洗浄液からスライドグラスを取り出す操作,M山さんは「水滴が付かないようにゆっくりと,10秒くらい時間を掛けて,一定のペースで.これが最後のスキャン映像の質を左右するから」と繰り返し言い,実践までしてくれたわけであるが,後輩はなぜか一秒でスライドグラスの半分近くを引き上げてしまう.


お前の体内時計はどんだけ人とズレとんねん


それが元で最後のスキャン結果が一部滲んでしまう.まあ大したことはなかったけれど,一瞬10万円が吹き飛んだと思った.まあそれも勉強である.

データをCD-Rに焼いてもらい,実験室を出る間際に,M山さんに土産を渡す.富士川SAで見つけた,一箱210円という格安のフルーツ餅である.巨峰,苺,蜜柑,メロン,抹茶の五種類.全部買っても1050円なので,こりゃちょうどいいと思って一通り購入しておいたものである.しかし「あ,お土産いりますかー?」と聞いた直後のM山さんのテンションの上がり方は尋常ではなかったことを報告しておきたい.筑波の長村さんのところでマイクロアレイをさせてもらう時は,M山さんに菓子折りを渡してご機嫌を取るべし.話は戻って,別れ際にM山さんから

アメリカから帰ってきたときも,もちろんお土産持ってきてくれるわよね!COACHのバッグじゃなきゃダメよ!!」

と言われたが,210円であれだけテンション上がるのだから,多分何を持っていっても大丈夫であろうことは疑いない.


さて,実験が終わった頃合を見計らって長村さんが迎えに来てくれた.「ちょっと見て行くかい?」と言って長村さんがガチャリと開けたドアの向こうは,イネの形質転換体(よーするに遺伝子組換えですが)がズラリ.圧巻である.

「すごっ!ウチなんて3年掛かってもまだ一つも形質転換できてないのに・・・」
「多分ここに来て学ばせてもらったら一発でできるで」

研究は一人でするものではない.所属研究室で確立できていない実験系を使うなら,それが得意なところにしばらく滞在させてもらうのがいちばんいい.どんな実験にもコツというものがあって,それは熟練者から直接教えてもらったり盗んだりするか,そうでなければ自分で試行錯誤を繰り返して獲得するかしかない.1人で悪戦苦闘を繰り返し,「ウチのこの実験系はイチから自分で立ち上げた」ってカッコツケるのも結構だが,ハッキリ言ってお金と時間のムダである.実験技術は飽くまで手段,研究者なら,目指すのはその先だろう.

自分の研究に必要な技術があれば,それが得意な研究室や人を探してコンタクトを取り,自分から足を運び,交渉して協力してもらうというのは研究者として大変に重要な資質であると僕は思う.

少なくとも,それは後輩に伝えることが出来たと思った.