つくばへごー 3

昼前に河瀬さんから電話が入る.
「昼飯一緒にどうだい?」
「二つ返事で参らせて頂きます」
というわけで近くのファミレスへ行き,河瀬さんの経歴について色々伺う.ミャンマーマラリアに罹った話がいちばん強烈だった.
それにしても,農学系の研究者にはフィールド派と実験室派の2タイプがいるなーと思う.人間としてはフィールド派の人の方が俄然面白いんだけど,研究テーマとしてはやっぱり実験室の中で,「分子生物学の最前線」にいる方が面白い.というわけで,フィールド系の人達と協力しつつ,自分は実験室での仕事を受け持つというのが理想的か.


午後は河瀬さんの研究室でダラダラした後,一念発起して放射線育種場へ.ブンブン飛ばして何とか五時前に到着したと思ったら,僕が世話になっていた研究室の明かりが消えているではないか.
そう,最近研究機関ではフレックスタイムが導入されていて,出勤時間を朝7時半から11時までの間で調節できるのだ.朝早く出勤した人は当然夕方4時頃には帰宅できるわけである.そして更に,今後近い将来,研究者の勤務時間は完全に自由化されるらしい.時間的な拘束は一切なくし,成果の有無のみを問う時代が来てしまうのだ.僕にとっては天国ですな.

仕方がないので庶務課の方に顔を出してみたら,こっちのも二人しか残っていなかったのだが,そのうち1人が昔経理係長だった久保さんで,今は課長になっていた.いやー久しぶりじゃないっすか,と声を掛けたら
「あ,おま,内藤じゃねーかこの野郎!」
というひょうきんな返事が返ってきた.それだけで後輩はバカウケしている.
「ところで久保さん,何か食い物,ってゆーかエサないですかね,エサ.ちょっとコイツが腹を空かせてるんですよ」
カップめんかカップ焼きそばならあるけど?」
という返答に後輩は言う.
「いや,出来ればチョコレートとか・・・」
久保さんはキレる.
「てゆーかお前,いきなり来といて何が食いもんだよバカヤロウ!神聖な職場にチョコレートなんかあるわけないだろ,この野郎!」
「いや,神聖って,カップうどんにカップ焼きそばじゃ説得力欠けてますやん」
これで後輩は完全に久保さんにハマってしまったようである.僕は続ける.
「それに,きっとそこの根本さんの机の引き出しには,絶対甘いものが入ってるはずです!」
と言って経理のパートさん,根本さん(既に帰宅)の机の引き出しを開けてみると,ドンピシャである.
「ホラ,ね!というわけで久保さん,久保さんの権限で,今僕らがこのチョコレートを根本さんから拝借することを許可してください.」
久保さんは呆れた顔をする.そして僕は人に呆れ顔をさせるのが得意である.でも無茶な要求をケロリと言うと,案外認めて貰えるんだな,これが.
というわけでチョコレートを獲得して嬉々としているところへ,森田さんがやって来た.僕が世話になっていた研究室で,僕とほぼ入れ替わりにこの放射線育種場へやって来た研究員さんである.
続いて彼の案内で実験棟へ行き,自動DNA抽出ロボットなどを見せてもらう.こういうものが,あるところにはあるんだよ.