大切な人.

日本を出てくる直前に,1人の女に惚れた.正直に言って,アメリカ行きを蹴って日本でポストを探そうかと真剣に考えてしまったほど,惚れた.そんな僕に対する彼女の言葉は,「行った方がいいい.寧ろ,行け」だった.

最初から,彼女は僕の言葉に対する感度が異常に高かった.バカトークには腹を抱えて笑ってくれるし,シリアスな話をすると目を見開いて聞いてくれる.どんな話をしても,彼女には上手く伝わる気がした.自分の心に火が点いている.そう自覚するのに,時間は掛からなかった.

アメリカに来てから,毎日メールの遣り取りをしている.最初は,あまり長いメールを送るのを躊躇した.長メールには,読むだけでも時間が掛かるし,返信するとなると尚更だ.彼女とて暇な身分ではない.メールの遣り取りが彼女にとって負担になってしまうことだけは避けたかったのだ.

杞憂だった.

彼女もまた,メールに言葉を乗せて,伝え合うことこそがいちばん大切なことだと思ってくれていることが分かった.リミッタが外れた.毎日物凄い量の言葉が交換される.この一ヶ月の間に,二人合わせてその量はワードにして300ページを超えた.言葉を交わす毎に,会話の内容のレベルが上がる.僕の言葉が確実に彼女にインストールされ,それが彼女の言葉を紡ぎ出し,それが再び僕の中にインストールされる.心と心の境界線が,溶け合って曖昧になっていく感じがするのだ.


ちょうど一ヶ月前の8月1日,空港にいた僕へ,id:ain_edが憎たらしい言葉を送ってくれた.

本気で好きになれば遠恋にはならんよ.うちみたいに(笑)連れてけ,アメリカに.もしくは結婚しちまえ.1人では広すぎる世界も,二人で行けば丁度良いさ.例え同じ時間,同じ場所にいなくても.

その言葉を受け取ったときは,それはain_edだから言える台詞だろ,と思った.だが,今は自信を持って僕も言おう.1人では広すぎる世界でも,二人で行けば丁度いい.例え同じ時間に,同じ場所にいなくても,と.