かけがえがない,ということ

昔から思っていることがある.

永遠の愛とか,1人に一生を捧げる愛とか,そういうのは単なる幻想だろう.だが,「自分にとってかけがえのない存在」っていうのは間違いなくのではないだろうか.それは「簡単に代わりなんか見つからない」という意味だ.
よく男は金だとか,女はやっぱり顔だとか,そういうことを言う人がいる.だがそういうことを平気で言う人間は,本当に誰かを好きになったことがないんじゃないかと思う.金にせよ顔にせよ,あるいは思いやりがあるとか料理が上手いとか,そういうのは所詮全部単なる記号で,それこそ幾らでも架け替えが利くことになる.

「かけがえがない」というのは,やはり体験してみないと分からない.それは例えば本当にに一緒に泣いたり笑ったりできるとか,一緒に美味いものを食うだけでも何かが伝わる気がするとか,その人と一緒にいるときの自分がいちばん自分らしいと感じるとか,そういう言葉でしか表現できないことだ.そういう微妙なラインが一致する相手は,本当に貴重だ.一人ひとりがそれぞれ違ったバックグラウンドの中で生きてきたはずの世の中で,そういう「一致するはずのないものが一致する(野矢茂樹)」というのは,ほとんど奇跡に近い.流石に,そんな相手が世の中にたった一人しか存在しないということはないだろう.だが,その人の代わりを見つけるのがどれだけ難しいことかというくらいは,簡単に想像がつく.

かけがえがないとは,そういうことだ.