パスカル「パンセ」

「人間は,自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない.しかしそれは考える葦である.これを押し潰すのに宇宙全体が武装する必要はない.一つの蒸気,一つの水滴もこれを殺すのに十分である.しかし宇宙がこれを押し潰すとしても,そのとき人間は,人間を殺すこのものよりも崇高であろう.なぜなら人間は,自分が死ぬことを,それから宇宙が自分よりずっと勝っていることを知っているからである.宇宙は何も知らない.

 ここで宣言されているのは,人間のどうしようもない「弱さ」であり,そしてその「弱さ」が持っている「偉大さ」だ.
 物質世界では,人間は脆く,儚く,弱い.人間の力なんて本当に限られていて,どんなにお金や権力を持ったとしても,手に入るものなんて高が知れている.だが,精神は違う.「考える」ということによって,人は宇宙の果てを巡ったり,時間の壁を打ち破って過去や未来を往復したり,目には見えないミクロの世界にまで到達することが出来る.そういう人間の精神こそ,真に偉大なものだと,物質的にはどんなに制約されてても,心の中に広がる世界は無限なのだと,パスカルは言った.宇宙は偉大だが,その宇宙自身は何も知らないんだから,人間には敵わない・・・凄い言葉である.
 パスカルは,「弱さ」や「小ささ」が大きな自然や巨大な宇宙に匹敵するってことを知っていた.人間の思考を媒介するかぎり,強弱や大小は逆転させることが出来ると.
パスカルはこうも言ってる.

人間の小さなことがらに対する敏感さと,大きなことがらに対する無感覚とは,奇妙な入れ替りを示している.

 
「小さなことがらに対する敏感」.シャープペンシルの芯や,プチトマトや,惚れた女の唇の端,視線.それから「大きなことがらに対する無感覚」.住んでいる町の全体や,イラク戦争や,仏教の全貌.確かにこういうスケールの大きいことには,人は鈍感で無感覚だ.しかし,それも時々,そして不意に目まぐるしく,入れ替わる.


パスカルはこうも言う.

つまらぬものの魅力のために,一週間しか生命がないかのようにして,行動してみるべきなのである

もし一週間の生涯なら,百年をも捧げるべきなのだ

精神世界が全てだとは言わない.だけど,ちょっと感動しないか.