一対の幻想 1

自尊心の強い人は,仕事とか恋愛とかで成功したときに,「オレは凄い,オレはイケてる」と無意識に思ってしまう.逆に,自尊心に負けない人は,成功した「要因」を把握しようとする.
「あのときこうやって上司を説得したらからいいスタートを切れた,それから取引先にも大いに利益のある提示ができたことと,あとは後輩を巻き込んで資料を作ってもらえたことが良かった」というような.こういった「何故自分は事を上手く運べたのか」という理由を考えられる人は,確かな自信を持つことが出来る.そしてそのような考え方をするならば,一つ一つの要因は,環境が変わったら別のやり方を必要とすることも理解できるため,「今度の取引相手が求めてるのは何か?」ということを探ったりするところから始められる.
ところが,自尊心の強い人は,一旦成功したら兎に角「自分が正しかった」と思ってしまう.彼はその後,どんな取引先が相手でも,或いは上司や後輩が入れ替わっても,最初の成功と同じやり方で通してしまう.こういうのは自信というよりは,単なる「自惚れ」である.

失敗したときも同様だ.自尊心の強い人は,失敗すると「オレはダメなヤツ」である.自尊心に負けない人は,失敗したらすぐに「どうして上手くいかなかったのか」をすぐに探ろうとする.試験に落ちたら「やっぱり勉強不足だった」等の理由を見つけ,今度はしっかり勉強して再度試験を受ければいい,と考えることができる.こういう考え方を「罪の意識」というらしいのだが,罪ならば,次の機会に償えば済む,ということか.
一方自尊心の強い人は,一度の挫折で「失敗したのはオレがダメな奴だから」と,何故か自分の全人格を否定するに至ってしまう.これは「恥の意識」と呼ばれる.失敗する自分が恥ずかしくて,再び失敗するのが怖くて,あからさまな引っ込み思案に陥る.

自惚れる人は,容易に「根拠のない自信」を持つ.仕事が成功し,女も出来たりすると,「何をやっても上手くいく」気分になる.だが,ある事が上手くいったからといって,別のことまで上手くいく理由はない.確かに,物事に挑戦するときに「勢い」は重要な役割を果たし,だから物事は上手くいきやすくなる.しかし,当たり前だが勢いだけで何もかもが上手くいくはずはなく,そのうちコケることになる.コケるとどうなるかは,明日続きを書くことにしよう.

「勢い」は気分的なものである.気分的なものとは,即ち「コントロール出来ないもの」なのである.理性的に考えるなら,そのような「コントロール出来ないもの」に頼ることの危険性はすぐに分かるはずだ.もし物事を本当に成功させようと思うなら,まずは「コントロール可能なもの」について,十全に準備を整えることからスタートすることだ.「やる気」や「勢い」について考えるのは,最後でいい.十分に準備が整い,更に気分が乗ったときに,一気に事を運ぶ.そして決めたら,迷わないことだ.