一対の幻想 2

自惚れている人は,「今まで上手く行ったから,今度も上手く行く」という非常に危うい根拠の元に,勢いだけで物事を運ぼうとする.実際に,勢いさえあれば上手くいってしまう物事は多いのだが,上手くいけばいくほど益々自惚れてしまう.そして本当に自分は何でも出来るかのような,「自己の万能性」を信じてしまう.それは確かに神にでもなった気分であり,そういう自信満々の状態は,他人から尊敬の眼差しを受けるかもしれない.だが最大の問題点は「万能感に慣れてしまう」ということなのだ.「万能こそ自分ののアイデンティティ」と言う状態に,容易に陥ってしまうのである.

繰り返すが,「自惚れ=根拠のない自信」である.1つのことが出来たからといって,他の事まで出来るとは限らない.だが自惚れてる人のマインドは「人より少し頭がいいから,何でも出来る」と思っていたり,「人より少し行動力があるから,何でも出来る」と思っていることになる.論理的にはメチャクチャである.

したがって,どこかで必ずコケる.そして,コケた途端に焦ってしまう.「万能な自己」に慣れてしまっているために,一度の挫折で自己が崩壊するような危機感に襲われる.それで焦って,再び「万能な自己」を取り戻そうとして,一発逆転を狙おうとする.結果,より大きな失敗を招く.そして益々冷静さを失い,ちょっとしたことまで上手く出来なくなってしまう.こうして自惚れのバブルは弾け,真っ逆様な転落する.「何でも出来るような気がする」が,「何をやっても上手くいく気がしない」に反転する.だがこの両極端は,いずれも,自尊心が人に見させる幻想に過ぎないのだ.

成功にせよ,失敗にせよ,必ず幾つもの要因が重なってそうなっている.成功や失敗を経験するたびに反省し,その一つ一つの要因を洗い出しては意識的に積み上げていくことが出来たなら,それは「自信」となっていくだろう.それは単なる幻想ではなく,確かな知識と豊かな経験に裏打ちされた,確固たる自信を育んでくれるはずだ.