別のイライラ

フェンがまたやらかしてくれた.今朝僕が最後の確認実験をしてるとき,フェンがとんでもないことを言った.

「ボスに僕らの実験が完了したってメールしといたから.」

この瞬間,凄く嫌な予感がしたんである.昨日までの実験結果に,フェンは気を良くしてしまっている.飽くまでも,あと30分後には出ているであろうこの実験結果がクリアでなければ,僕らの実験は成功したとは絶対にいえない.昨日の実験データは確かに期待以上の数値を示してくれた.だが,だからといって僕らの実験が成功したも同然と考えるのは早すぎる.

これは信用に関わる問題なのだ.人に信用されるためには,確実なこと以外は絶対に口にしてはいけない.「出来ました!」と言われたら,当然ボスは喜ぶ.だがその後に「やっぱりダメでした」では,信用など一瞬にしてガタ落ちである.

そして僕の嫌な予感は,的中した.結果は散々だった.ヒューマンエラーだと思いたかったが,もう一度やり直しても結果は同じだった.
やれやれである.フェンが先走ってくれたお陰で,失敗の原因に加えて,どうやってボスを宥めるかってことまで考えなくてはならなくなってしまった.

フェンの気持ちは分かる.このラボに来てから2年,なかなかボスに信用してもらえずに燻っていた.今,ずっと訴え続けてきた研究が上手くいってると示すことで,自分の名誉を挽回したくて仕方がなかったんだろう.だがそういう誘惑に負けてしまったことが,事態を更に悪化させる.

頭はいい.だが実行直前になって優柔不断になったり,途中の結果に気を良くして慎重さ欠くなど,成功しようとするなら絶対にやってはいけないことだ.決断したら迷わず,途中の小さな勝利に驕らないというのが成功の大切な条件だが,人間は最初からそれが出来るようには作られていないのが現実だ.

そう考えて何とか怒りを抑えているのだが,バカヤロウ!,と怒鳴ってやりたいのが本音である.