読破

ニーチェ (ちくま学芸文庫)

ニーチェ (ちくま学芸文庫)

ドゥルーズによるニーチェの入門書.最初の数ページだけで,僕の中のニーチェ観をすっかり変えられてしまった.ニーチェなんてロマンチックなヒロイズムに過ぎず,その行き着く先はナチスドイツでしかないだろーと思っていたんだが,それを「最もありがちな誤解」だと一蹴されてしまった.

ニーチェが想定した「超人」は,力を欲するものである.だがこの「力」は他者に対する支配や権力を意味するのではなく,絶え間なく生成を続ける生命の力を肯定することだという.曰く,「脱皮できない蛇は滅びる.その意見をとりかえていくことを妨げられた精神も同様だ」というような.

ニーチェは革命による市民の利権の拡大を手厳しく批判した.それは弱者が英雄的強者を打ち倒したからでは全然なく,被支配者にとって,「それまで決定権が外部にあったものを内面化した」からである.つまり,権利の獲得によって「背負うべき重荷」を増加させてしまっているのだ.例えば,宗教革命を起こしたルターは,カトリック教会の腐敗を糾弾して,教会の役割を廃止してしまった.それまでキリスト教の教義を語り,信仰を管理するのは司祭の役割だったわけだが,ルターは「教会は,個人の心の中に築くものだ」と言って,信仰の責任を個人に帰した.結果,それ以降プロテスタントの信者は単なる信者ではなく,司祭の役割まで自ら担わなくてはならなくなってしまった…というような.

「真の創造ならば,重荷から解放されなければならない」.

最後の,ニヒリズムと揶揄されがちなニーチェの「永遠回帰」の思想を,ドゥルーズが「真の生成の物語」として読み解いていくところにはメチャクチャ感動したのだが,その内容についてはヒミツにしておこう.とにかく,本当に多くの言葉を与えてくれた.


世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

ジュンイチ文庫.「博士の愛した数式」の著者小川洋子と,「国家の品格」で評判を下げてしまった数学者藤原正彦の対談.本書全体に溢れている「いやー,数学ってすごい!」というポジティブ過ぎるノリには辟易してしまった.対談だから仕方ないとはいえ・・・.紹介されている定理も「博士の…」に登場するものと大して変わらず,我慢して読んだ甲斐はあまりなかったかも知れない.すまん,ジュンイチ.

それにしても藤原正彦,沢山本も読んでて教養もある筈なのに,何で国の文化や性格をそんなにあっさり一言で言い切ってしまうのか…