ワリに合わないと思ったこと

昔の話だが,僕は知り合って間もない女性と京都の街でデートをして,晩御飯を一緒に食べて,そしてセックスをした.その女性とは会話をしていてこちらが引き込まれるような感じはなかったから付き合う対象ではないと思いながら,でも美人だったので寝た.

セックスは悪くなかった.だが翌朝彼女を車で駅まで送り届けてから,何とも馬鹿馬鹿しい気分に襲われた.(僕の中では)セックスが前提だったから,お寺の拝観料や晩飯代,ホテル代まで当然僕が払った.ちょっと待て全部で幾ら掛かったんだよ,と冷静に考えてしまったんである.その金額で,何冊本が買えたかと思うとさらに凹んだ.

セックスまでは良かった.女を喜ばせる話をして,機嫌を取って,そういうことが出来る自分に酔っていた.しかし終わってみれば,単にセックスするために費やした労力だとしか思えなかくなってきた.結局,僕はあれだけの時間と労力と金を使って,得たものが一晩の快楽だけだったという結論に達し,こんなにワリが合わないことは二度とすまいと思ったわけである.

世間に「モテる男のうんたらかんたら」といった本が大量に出回っているのを見る限り,多くの女と関係を持ちたい,を取っ換え引っ換えセックスしたいというのは多くの男が抱く願望なのかも知れない.だが自分の経験から考えてみると,性欲は勿論だが,その裏に支配欲や権力欲(或いは単なる自尊心)を少なからず孕んでいると思う.他の男が羨むような美人と手を繋いで街を歩き,レストランではずっと楽しそうに笑わせることができるというそのこと自体に酔ってしまうのだ.だがその後に何があるわけでもない.相手との深い心の繋がりなんてあり得ない.それってどっちかというと孤独じゃないのか.

そんなわけで,それ以来僕の中では「モテたい」という願望は下らないものとして却下されている.

・・・続く