心が揺れた.ぐらぐらと.

日本の研究所から,ポスドクのお誘いが来た.「来年度四月から来て頂ければ」と.
ぐらりと来た.思いっきり揺れた.無論,日本に帰れば彼女との物理的距離が遥かに縮まるというのがいちばん大きい理由だが,それだけではない.その研究室がタンパク質や生理学的手法を駆使して優れた研究成果を挙げているからだ.研究者としての僕のバックグラウンドは思いっきり遺伝学に偏っていて,だから将来どこかで生理学的なノウハウを身に付ける必要があると思っていた.それで,アメリカでのポスドクが終了したら,もう2,3年ポスドクをやって自分のウィークポイントを克服したいと思っているわけである.で,誘いが来たのは当に2年後に自分が狙おうと思っていた研究室からだったのである.願ったり叶ったりではないか・・・来年度の四月からという条件さえなければ.

メールの内容を見れば,「来年度からポスドクを雇えるだけの研究費を取れたので云々」とある.僕が断れば,誰か他の人間がポスドクとして雇われるだろう.そしてまた一年が経過したときに,先方がまた新たな研究費を獲得できる保証はどこにもない.だが,キャリア上,一年も経たないうちにアメリカから引き上げてしまうことのデメリットは小さくない.第一,今取り組んでいるプロジェクトは,春から僕がリーダーになる.ここから見込める成果ははっきり言ってかなり大きい.

決めた.今はまだ日本に帰らない.こっちできっちり業績を挙げ,それから改めて誘ってくれた研究室を狙う.それが最初に決めた理想的な計画なのだ.来年,先方にポスドクを雇う余裕がなかったとしても,こっちが学振を取っていれば何の問題もない(簡単に言うなよ).

断りの返事を出してから,彼女にメールした.正しい判断だと言ってくれた.