月食に思う

昨日,同居人のシンヤくんが,帰って来ると同時に教えてくれた.

「今2年に1度の月食が見えてるよ」と.

うっそマジでってカンジで部屋を飛び出した僕.本当に月が欠けていて,また欠けつつあった.その欠けゆく月を見ながら,思う.
月食とは,つまりは「地球の影が月に写る」ということだ.だから月の欠けてる部分と欠けてない部分の境界線は弧を描いている.地球は丸いのだから当たり前だと言えばそれまでだが,その地球の表面に立っている僕には,地球の丸さは全く見えない.にも関わらず,遥か彼方の月面上に写っている影の方が,地球が丸いことをよく表している.そのことに,何か深い感慨を覚えた.
今度は,月に背を向けて地面を眺めてみる.今,月に地球の影が写っているならば,太陽は月と正反対の方向にあるといことになる.月と僕とを結んだ直線を延ばしていくと,その直線は地球の内部を通り抜けて反対側に出る.そこはもちろん真昼間で,だがもしこの直線に沿って地球に真っ直ぐ穴を開けることが出来たら,太陽の光は直接僕に届くはずだ.

・・・「地球は丸い」.今では誰でもそんなことは当たり前だと思っている.だが,それは飽くまでも教科書的な知識として常識なだけだ.ほんの一握りの宇宙飛行士を除くと,誰も地球が丸いってことを体験することは出来ないのだ.だから想像力を働かせるしかなくなるのだが,本当に地球が丸いとしたら,僕と,地球の裏側に立っている人とは,お互いに足を向け合って立っていることになる.そういう,二人の人間が上下逆さまに立っている状態を想像してみると,途端に居心地が悪くなる.

「地球が丸い」という事実を知っている筈の僕でさえこうなのだ.未だ世の中の大多数が天動説を信じて疑っていなかった時代に,計算と観測の結果がそうでなければ説明できないというだけの理由で,その「居心地の悪さ」を,ヘタをすると世界がひっくり返るような結論を,自ら受け入れることの出来たケプラーコペルニクスガリレオは,やはりとんでもない人間だったのだと思う.

母校を今年度いっぱいで退官される教授が言ってたらしい言葉を思い出す.曰く,

最近の研究者は予定通りの結果に満足し過ぎている.

と.

そうなのだ.科学の偉大な進展は,常識をひっくり返し,唖然とするしかないようなものばかりなんである.地動説しかり,万有引力相対性理論,ビッグバン宇宙論.ハイゼンベルグ不確定性原理やウェゲナーの大陸移動説,進化論,メンデルの遺伝の法則,遺伝物質DNA...

予測通りの実験結果など,大したことではないのだ.