何の研究?

昼飯時に出会った日本人留学生と話してるときに「健さんって何の研究を?」という話になったのでイネだよ,と答えると
「Super Riceを作るんですか?」と来たので
「ううん.そういう世の中に役立つ研究とかじゃ全然なくてさ.イネを使って,生物進化のメカニズムを探求してるって感じかな」
「イネでそんなことが出来るんですか?」
「んっとね,そうやなー遺伝子って分かる?」
「言葉だけなら…」
「うん.まー簡単に言うと遺伝子って生物の設計図なのね.ヒトはヒトの設計図を持ってるからヒトの形になるし,サルはサルの設計図を持ってるから,あんな形をしててああいう行動をしたりする.それぞれ設計図が違うから,この地球上には色んな生き物がいるわけ.っていう言い方なら分かる?」
「はい」
「でな,今でこそこんだけ沢山の種類の生物がおるけども,時間を遡って全生物の祖先をずーっと辿っていくと,たった一つの共通の起源に行き着くねん」
「えー?そうなんですか?」
「そうやねん.人間やろーが魚やろーがイネやろーが関係あらへん.全部いっしょ.最初の生命体が生まれたんは大体35億年前やって言われてるけどな.その最初はたった一つの単細胞の生命体に過ぎんかったヤツが,分裂を繰り返してあっちこっちへ広がっていくうちに,ちょっとずつ設計図が書き換わっていって,35億年という時を経るとオレみたいなんとかキミみたいなんが生まれてきたわけ」
「突然変異ってやつですか?」
「そうそう.よー知ってるやん.でもな,普通に言われてるような突然変異だけでは,実際に起こってきた進化のスピードって全然説明できへんわけ.元々の設計図が人間の設計図に書き換わるには,35億年なんて短かすぎるんよ」
「そうなんですか?」
「うん.だからもっと設計図の書き換えを加速させるようなメカニズムが必要でさ.オレが研究してるのはそういう,生物の進化の鍵を握ってる現象というか,存在というか?まーそういうヤツの研究やねんな」
「何か凄いですね〜」
「ありがとう.んで,偶然見つけたんやけど,イネの中に一つ変わりもんがおって,そいつの中では今まさにその『加速機構』が動いてて,物凄い勢いで設計図が壊れていってるねん」
「えっ じゃあイネが別のものになっちゃう・・・?」
「あははは,いやいやさすがにそこまで劇的には変わらんけどな.パッと見は普通やねんけど,ミクロのレベルで,ちゅーかもっと小さいレベルで見てみると,ちょっと大変なことになってるんちゃうのこれ,って感じやねん」
「へぇ〜面白い」
「ありがとう.でも役には立たへんで.まあ本来科学っちゅーのは役に立つとか立たんとかじゃなくて,ただロマンを追っかけるもんなんやけどな」

・・・・・

何年か前までは,自分の研究内容を文系の人間はおろか,畑違いの人間に説明しようなんて思いもしなかったし,そんなことが可能だとも思っていなかったのだけど,いつの間にやらそういう言葉も身についてしまったらしい.