読破

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)

始まりから著者の若い頃の記憶やらヨーロッパ=ブラジル間の船旅の話やら,第二次大戦下のフランスからの脱出の話やらが脈絡なく続き,これはとんでもなく退屈な著作かと思いきや,ラスト4分の1に入ると著者の専門であるアマゾンの奥地に暮らす原住民の文化や生活様式を調査して回る旅の話になって,ここが異常なほど面白い.
そして西洋の文化と原住民の生活様式とを比較しながら,文明人と未開人との間に共通な事象を見出していく.いちばん印象に残ってるのは,全身に刺青や文様を描く民族の話.彼らにとっては,体に何も描かないヨーロッパ人は野蛮そのもの.何故それが野蛮なのか?描くことが出来るのは人間だけで,何も描かないのは動物と同じなのだ,という件.
さすがは構造主義の提唱者,といったところだ.構造主義,それは人間の価値観や考え方は生れ落ちた文化圏によって不可避的に決定され,個人の主体性や自由意志が及ぶ範囲など高が知れているという哲学思想.ヨーロッパに対する強烈な自己批判であり,ポストモダンの原点である.