読破

カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)

ドミートリイの裁判で,弁護士フェチュコービチが放つ「事実の全体は決定的に見えても,その全体を構成している一つ一つの事実には,何一つ客観的な確証が存在しない」という言葉は,最初に読んだとき以来の座右の銘である.
第4巻にも読みどころはたくさんある.14歳の少年コーリャが,アリョーシャと話しながら,話している自分の姿が滑稽だと思ったり,知ったかぶりをしようとしていることを自覚していたり,旧訳を読んだ当時はまるで僕の自意識がそのまま描かれているような気がしてショックを受けたもんであった.
そして「神がなければ,全ては許される」という自らの思想に飲み込まれ,精神が狂ってしまイワン.イワンの思想に心酔し,イワンと一体化しようとし,イワンの隠れた欲望を暴きだしてしまうスメルジャコフ.結局無神論者たちは破滅し,ゾシマの預言は不幸にも的中してしまうのだ.父を殺した者,そして父の死を願った者までが,等しく罰せられる.なぜなら,この物語は半ばドストエフスキーの自伝だからだ.実際に父親が殺害され,そしてその父親の死を内心では望んでいたがゆえに,彼は一生罪の意識を抱え込んでいたのである.イワンとスメルジャコフは,作家のそのような内面を,色濃く投影された人物なのだ.