宗教と科学,服従と自由,保障と鬱

ライブが一区切りついて,ジュンイチと二人で次どのライブハウスに行こうかと話していると,ジュンイチの友人であるJaneと出会った.彼女の家庭環境はジュンイチから何度か聞いていたけど,会うのは初めてである.

ジュンイチから聞いていた話では,彼は元々Janeの兄貴であるCharlesと仲が良くて,こないだ彼の招待で実家に遊びに行ったら,彼の10才くらいの妹に,「どうして神様が存在しているとはっきり言えるのか」とか「進化論がいかに間違った考えであるか」を懇々と語られた,というのである.ジュンイチはそれが嫌だったとかそういうことではなくて,10才でこんなにもStrictな考え方になってしまうんだと,新鮮な驚きを感じて興味深い体験でしたということだった.で,妹くんがそれだけ神について熱く語ったあとに付けくわえた言葉が「でも,うちのお姉ちゃんは神様を信じてないんだけどね」だったらしくて,そんな状態がアリなんだってことに更に驚いた,と.

で,その「神様を信じていないお姉ちゃん」が,Janeなのである.

Janeの話によると,彼女の両親的にはやっぱり彼女が神様を信じていない事実は受け入れ難いことのようである.今彼女は男の子二人とRoom Sharingをしている(もちろん自分専用の部屋がある)のだが,両親はそれを「悪魔の所業」だと言ってカンカンらしい.仕送りか何かの援助を止められたそうだ.うむ.
デートも,22歳になるまではダメだ,と.興味深かったのは,両親が「お酒は飲んでも構わないけどデートはダメだ」と言ってるらしいことだ.Janeは二十歳である.アメリカでは21歳未満の飲酒は違法だ.つまり,彼らの中では法律よりも戒律が上位に来ているのである.まあ確かに,法律は飽くまで人間が作ったものに過ぎないけれど,戒律は神のものだもんな.こりゃすごい.

それから,話の中で兄貴とか妹とかの話が出てきたので,何人兄弟なの?と聞いたら
「8人」
という返事が返ってきてひっくり返りそうになった.この経済が発展し切って女性の社会進出が当たり前な国で,8人兄弟って.あーでもそーいやキリスト教は堕胎だけじゃなくて,避妊もしちゃいけないんだよな,新たなる生命の授与は神の意志によるんだし,そーすると避妊も堕胎も神の意に反する行為になってしまうから.

しかし8人て.今どきそんなに子供がいたら教育費が半端なくなってしまうんじゃないのか?と言ったらジュンイチが
「あ,彼女の家の子供たちは,中学まではみんなHome Schoolingなんですよ」と言う.
これまたひっくり返りそうになってしまった.へ?学校教育って義務じゃないの?だがそこらへんは数学教育を専攻しているジュンイチの方が詳しい.
「日本でも一応そうなんですけど,教育の義務ってのは『親が子供に教育の機会を与えなければならない』という意味の義務であって,『学校に通わせる義務』ではないんですよ.だから日本にも少数ですが,Home Schooling をやってる人はいますよ」
そこへJaneが口を挟む.
「子供のころ『どうして私は学校に行かないの?』って聞いたら『あそこに居るのは悪魔よ!』って言われたわ」と.
そりゃ10歳の妹がああなってしまうわけだわ.なるほど.両親が厳格なクリスチャンで,兄や姉も同じ環境で育ってりゃ,世界はそのようなものとして決定づけられるわなぁ...って,あれ?

じゃあ,Janeも子供のころはそんな風だった?

「うん.15くらいまでは本当に神様を信じていたわ」
「どうやってそこから抜け出したの?」
「私はいつも両親に訊いていたの.『どうして○○じゃなきゃいけないの?』『どうして××しちゃいけないの?』って.でも彼らの答えはいつも『聖書にそう書いてある』ってだけ.そんなの全然納得できなかったの.で,私は自分で納得できないことには従わないいことに決めたの」
あ,それって科学的な態度だね.

そこまで話したところでJaneがしばらく席を外したので,ジュンイチと二人で話し込む.ホームスクーリングなんて初めて聞いたわ.そんなのってアリなん?いや現実に存在する以上はナシなわけないんだけど.
「そうですね.でもフツーにアメリカ人の間でも,Home Schoolingで育った人間には変わったのが多いっていう共通認識っぽいのがありますね.『あのコちょっとおかしくない?』『ああ,アイツはHome Schoolingだから』『あーなるほどね』って会話が成立するくらいですから.でも,こないだ教育の授業でビデオを見たんですけど,普通に学校に通っている子供たちとHome Schoolingの子供たち(10歳未満くらいですかね)を混ぜて一緒に遊ばせてみると,Home Schoolingの子供たちの方が周りを引っ張ってリーダーシップ的な行動を取る傾向が強いっていう調査報告だったんですけどね.意外な感じですけど」
なるほどなー.でもそれは狭い世界で育ってきた分,恐れを知らないってことなんじゃないか?誰かから拒絶された体験とかもまずないやろうしな.
「ああー,そういうことか」
ある一つの価値観しか持っていないと,確かに迷いからは無縁でいられるやん?でもそれは考え方のオプションが一つしかないってことなわけで,そのまま大人になるってのはちょっと怖い気がするぞ.でもしかし・・・

というわけで,僕とジュンイチの会話はまだ続く.