厳しい環境条件

実験結果や計画について,ボスの批判はいつも手厳しい.というか単なる意地悪なんじゃないかとさえ思ってしまうほど激しい.本当に筋の通ったデータを一気に纏めて提出しない限り「面白い」なんて絶対に言わないし,かと言って纏まったデータを出すための実験について,計画段階では絶対にGOサインが出ない.いつも「そんな確証のない実験なんてやめるべきよ」で終わってしまう.

そんなボスが「毎週定期ミーティングを開く」なんて言い出したもんだから大変である.途中経過も今後の計画も全否定の嵐.辛い,これは辛いのである.先週の金曜日も院生の一人がコテンパンにされてしまった.

ミーティングの後,ポスドク三人と別の院生一人で「やれやれ...」という感じで話してたんだが,ポスドクのAaronが
「隣の研究室の教授と話すと,いつも『それは面白そうだな!こういう可能性も考えられるし,別の方向で問いを立てることも出来るじゃないか!』みたいな感じでやる気が出るんだけど,ボスと話した後はいつも家に帰りたくなる」
と言うので「あー分かる分かる」と爆笑してしまった.実際,ボスと研究の話をすると,ボスは僕の考え方がいかに浅薄で愚かなものであるかを徹底的に納得させようとしてくるわけで,実際僕でもかなりダメージを受ける.

すると院生のYujunが
「問題は,ボスは批判はするけど,それに代わる対策を何一つ提示してくれないってことだよね」
と言う.

そしたらAaronがすかさず,
「いや,でもボスは自分の批判を本人たちが乗り越えてくれることを期待してるんだと思うよ」
と言うので,あーコイツは結構分かってるヤツだなと思った僕.

そう,そーなんだよ.実際ここのラボを生き延びた学生やポスドクは,みんなビッグになってるわけだしさ,一方で潰されてしまった人間も山のように存在するわけだけど,もしここの関門をクリアー出来たなら,僕自身きっとタフな研究者になれると思ってる.幾らボスにこんなんやめろと言われても,自分が面白いと思ったら,ボスが納得するような結果が出るまでやり続けるしかないんだよ.あの人は本当に,計画の段階では絶対にYESと言わない人だからね.それに冷静に考えてみると,ムチャクチャに言ってるだけのように聞こえるボスの批判にも,結構ヒントが詰まってたりするしね.もちろん,本当に的外れ以外の何物でもないこともあるけど.笑

だけどもちろん,こんな激しいプレッシャーからは,一刻も早く解放されたいと思ってるけどね!だから早く成果上げて論文書いて,次の職場を見つけようぜ!笑