大人になれ

「大人になる」ってどういうことか知ってるか?
多くの人は「夢ばっか見てないで大人になれよ」って 使い方をする.「世の中の現実を受け入れろよ」って感じか.

でも僕は違うと思う.

例えば子供のときは,大好きなオモチャで遊んでいても, それを親に取り上げられたら泣くしかない.だが大きくなってくるとバイトをしたりして自分で自由に使えるお金も増えてきて,好きなものは自分で手に入れられるようになってくる.つまり,「大人になる」っていうのは 「今までやりたくても出来なかったことが,出来るようになる」ってことだ.

多くの人間が「やりたいことが出来ない,させてもらえない」ってことを理由に研究畑から去っていくが,僕はそういう考え方や行動パターンがあまり好きではない.

繰り返す.子供が子供のうちは,親や学校の先生がどんなに間違っていても,それに逆らうことは出来ない.でも子供は大きくなってしまえば,大人の言うことなんかに関係なく好きなことが出来るようになっていく.それが大人に「なる」ってことだ.

だから学生のうちにやりたいことが出来ないのは当たり前だ.学生は研究者の「子供」なのだから.

韓非子は言っている.「どんな名君といえども,冬に麦を実らせることは出来ない」と.どんなにやりたいことがあったとしても,然るべき時が訪れるまで待たなければならない時がある.いや,ただ待っているだけではもちろんいけない.やりたいことが出来るようになったその瞬間に全てを爆発させることが出来るように,或いはいざチャンスが巡ってきたときに,逃すことなくそれを掴むことが出来るように,自分を磨き上げておかなくてはいけない.冬の間は,農作業の道具の手入れをしながら春の訪れを待つということが大切なのだ.

だから,今やりたくても出来ないことをを出来るようになるには,自らが大人になるしかない.正確には,大人に「なっていく」しかない.つまり,一刻も早く博士を修了して,自分のやりたい研究に必要な資金や設備や環境を得られる立場に向かっていくしかない.

村上龍「KYOKO」の主人公は,エピローグでこう言う.

「未来は,私が何かに向かっている間だけ,私の手の中にある」

見定めた目標に向かって努力を積み重ねることの出来る人間だけが,希望という言葉の意味を知っている.そうやって何かに向かい続けている限り,未来はあなたの手の中にあるのだ.喩え今この瞬間は,やりたいことが出来なくとも.