読破
- 作者: 湯川秀樹
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/12/09
- メディア: 文庫
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しかしあとがきで市川が「自伝にせよ他伝にせよ,歴史上の人物を綴った本の内容は,かなりの程度デフォルメされてしまって,いちばん根っこのところの信憑性に欠けてしまう.その点に関しては本書の内容も大差ないわけです」というようなことを言っていて,一瞬「おいおい」と思ってしまったのだが,その後に続くコメントに心底感心させられた.
・・・つまり,俎上にのせて議論しているほうの側の人物の発言内容には,かなりの客観性があるんじゃないかと思います.他人を論ずるという場合に・・・他人を通じて語っている本人の特徴,正確,人柄といったもの,そのものは案外客観的に露呈しているんじゃないかということです.
つまり本書は二重の構造を持っていて,表向きは最初に挙げた四人を巡る天才論という形でありながら,その実,湯川秀樹個人の「創造性の哲学」を如実に示しているわけである.参った.
が,とりあえず次の帰国時には啄木の「一握の砂」とゴーゴリの「外套」は買って読まねばなるまい,と思った次第である.
- 作者: 森岡正博
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2009/02/17
- メディア: 単行本
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彼女もこの本を読んでいるので,毎日彼女と遣り取りしているメールでも,最近は本書の内容を話題にすることが多い.その一つに,現在日本の国会で,臓器移植法の改正案が出されているのだが,3種類の異なった改正案のうち,二つは「親族への優先提供」という項目を追加することを含んでいる,というのがあった.ドナーカードに「自分の臓器は親族に優先的に提供してくれ」という選択肢が追加されるわけである.
「医療」という観点から見て,直観的にこの選択肢があまりよろしくなさそうな気はしたのだが,考えてみるとそれをうまく説明することが全く出来なくて困った.例えば,故人の財産はその子息や親族が優先的に相続するのが当たり前だ.「私のお金・財産」について言えることを,どうしてそのまま「私の臓器」には言えないのか.そう思って考えているうちに,自分でもぞっとするような「境界線」を見つけてしまった.
基本的に「財産」に属するものを他人に譲る場合,その相手に経済的見返りを要求することが可能だ.だが,たとえばペットボトルや空き缶は違う.自分が飲み終わったあとのペットボトルは確かに僕のものだが,回収業者は僕に経済的な見返りを一切支払うことなく,それを利用することができる...つまり,臓器移植は所詮「リサイクル」なのだ.「脳死患者」となった僕の体は,ペットボトルや空き缶と根本的には変わらない,「資源ゴミ」と化してしまうわけだ.うげー・・・
これまでもずっと「脳死」という概念に違和感があったので,ドナーカードは持たないようにしてきたけれど,どうやら僕は一生アンチ臓器移植で生きていくことになりそうだ.
全体としての感想を言えば,どの文章も短く平易な言葉で綴られていながら,一つ一つが重く,しかし大切な問いを突き付けられる.答えは出ないが,しかしそれを考えずに生きていくのも勿体ないと思われる.オススメ.