従兄弟が夢に

父方の従兄弟が夢に出てきた.電車に乗って,僕の論文について二人で話している夢だった.実際に従兄弟とお互いの研究の話をしたことなんて殆どないんだけど.

従兄弟は僕より8つ年上で,メダカの研究をしている.2002年にメダカの性別を決定する遺伝子を見つけた業績がNatureに載って,テレビや新聞の取材を受けていた.
当時の僕はまだ大学院の一年目で,だからまだ投稿論文なんて一つもなくて,ただスゲーなと思っていた.研究室で「従兄弟がNatureに載ったんですよ」と言うと,みんな驚いて「えっ,凄いね!」という返事が返ってきた.国際学会に行くと時々魚の研究者と出会ったりするが,「マツダマサルってご存知ですか?従兄弟なんですけど」と言うと「ああ,良く知ってますよ」と返ってきた.僕にとって,Natureに載るというのはそういうことだった.

従兄弟は少年時代からとにかく魚と魚釣りが大好きで,オバのうちに行くと家中に幾つも水槽があって,その中に色んな魚が飼われていた.学校の成績はあまりパッとせず,大学も東京水産大学という,偏差値的にあまりパッとしないところに入った.それがいつの間にか大学院に進み,新潟大に移って博士号を取り,ポスドクで基礎生物研究所に入って,3年でNatureを出した.

自分にも出来るだろうか,と思った.京大に入った僕は,確かに偏差値は高いけど,子供の頃から好きだったことをそのまま続けている従兄弟に比べて,自分は研究の動機が弱い気がした.当時の僕には,まだ「これが面白くてこの研究をやっている」と言えるほどのものはなかったから.

今は,でも,僕もそれを見つけた.面白いと思いながら実験やデータ解析を進めていたら,思っていた以上に面白い結果がか出てくる・・・そういう経験を何度か繰り返して,これはもう絶対に止められないと思った.そしてそれがまた更に思ってもみなかった結末を呼んだ.自分がNatureに.しかも従兄弟より一年早く.

でも当然,この7年の間に従兄弟はもっと先に進んでいる.論文も沢山書いているし,30代で准教授になった.そして何より,子供も3人作っている.

従兄弟はいつの間にか,無意識のうちに,僕にとって一つの,近くて遠い目標になっていたらしい...そういや奥さんの名前も,僕の嫁と一緒だったっけってそれは全然カンケーない.