問題点と実験その1

 しかしながら,今現在大規模に転移を起こしている転移因子がこれまで見出されていなかったために,転移因子による生物の適応進化への貢献度については検証のしようがなく,上記の議論には未だに決着が付いてはいない.
 そこで,我々は内在性転移因子mPingが爆発的増殖を起こしている,貴重な実験材料であるイネ品種銀坊主を用いて,増殖時における転移因子のダイナミズムと,宿主の遺伝子発現制御への影響を直接的に,リアルタイムで観察することにした.
 その結果, mPingは転写開始点の上流1kb以内のいわゆるプロモーター領域への挿入頻度は突出して高かった(図2a,b)のに対して,遺伝子の内部,特にタンパク質をコードしたエクソンへの挿入は殆ど見られなかった(図2c).通常,遺伝子内部へ転移因子が挿入した場合は遺伝子が破壊される機能喪失型(loss-of- function)の突然変異が起こるため,植物体にとっては適応上不利となるが,mPingは転移する際,そのような植物体にとって最も重要な領域は回避する一方,高い頻度でプロモーター領域に新たなスイッチを導入している可能性が示唆された.