情熱

そんなボスのセミナー,本題に入る前にボスはこんなことを言った.「若い人たちは憶えておきなさい.運よく大学のポジションに就くことができたなら,もうあとは只管に自分の情熱を追い求めることができるのよ!」

そしてその言葉の通り,ボスは一時間にわたって熱のこもった講演を行った.京都から呼び寄せてきた後輩はその熱にすっかり感染してしまったようで,セミナー終了後に「うっひょーめっちゃ研究するんじゃよウチはー」と叫んでいたが,それくらいアツいセミナーであった.

そんな感じで,ボスのジョージア大での27年間のキャリアを総括する(今秋から彼女はカリフォルニアに移る.ちなみに後輩はそこに付いてくことに決定.笑)カタチの講演が行われたわけだが,奇しくも,その彼女のここでの最後にして最大の仕事を僕が担当したことになってしまった.しかし僕自身は当初こんな大仕事になるなんて夢にも思ってなかったわけで,セミナーの後半はほとんど「KENがやったのは...」という感じで何度も名前を出されたのは,何とも照れ臭かった.まあ,何というか本当に,思わぬ幸運に恵まれたお陰である.

しかし,ボスは本当に,27年間,ずっとただ一つの物事を追いかけ続けてきたわけわけである.いつかボスが言ってたのを思い出す.「興味も,やってることも最初からずっと変わってない.ただテクノロジーが進歩する度に,新しい発見をがもたらされてきただけ」と.

でも僕はむしろ,5年か10年ごとに,研究テーマを変えながら生きていきたいと思っている.僕はどうしても飽きっぽいし,やはり新しいことを始めるときの不安と期待が入り混じった,ワクワクする感じが楽しい.知らない分野の文献を読んで情報を集め,(ハズレかも知れない)方針を立てて計画を練る.定期的にそういう刺激がないと,何となく気分が停滞してしまう.こんなことでよく研究者が務まるものだと自分でも思うし,実は務まらないのかも知れないけど,少なくとも「この道ひとすじ何十年」というのとは違った研究者像を,僕は目指してみたいと思っている.案外そういう人間が,いつ間にか常識化した固定観念に囚われない発想が出来たりするしね.

そういえば,結局今の研究もそうやって始まったんだっけ.僕はD1の途中で「アメリカに行かせてもらえるから」というだけの理由で研究テーマを鞍替えした.そして最初にやった実験で,教官も先輩も当たり前すぎて調べるまでもないと思ってたことを検証してみたら,全然当たり前じゃない結果が出てきて,そのお陰でこの6年間美味しい思いをさせてもらえることになったのだった.あのときは,実験やった本人が一番ビックリして腰を抜かしたけど.笑