望遠鏡を使って家の中を観察しても...

先週末,元イネ研究者(笑)としてイネ分子遺伝学ワークショップなるものに行ってきた.最新の,というよりは今流行りの次世代シーケンサーを使った研究発表が詰らなさ過ぎて参った.

どうしてあんなに詰らない研究が出来てしまうのかしばらく考えてたんだが,今理由がひとつ分った.多分イネしか見てないからだ.

これまでの分子遺伝学的な手法では,調べられる範囲にかなりの限界があった.だからせいぜい「あのイネ」と「このイネ」を比較して,「あのイネは病気に強いのに,どうしてこのイネは弱いのか」くらいのことしか調べられなかった.イネとムギを比較して,「どうしてイネはイネとなり,ムギはムギとなったのか」を調べるなんて夢のまた夢だった(ヒトとサルって言った方が身近に感じられますか.そーですか.).

でも次世代シーケンサーは,そういう種の壁を越えた,もっと大きなレベルの比較研究を可能にしてくれるツールだ.天体観測における望遠鏡の登場みたいなもの,と喩えれば分りやすいだろうか.望遠鏡には望遠鏡に相応しい使い方がある.望遠鏡は夜空に向けられてこそ,その価値を存分に発揮できるが,望遠鏡で家の中を観察しても,肉眼では見えなかったゴミや埃が見えるだけだ.次世代シーケンサーだって,やはりそれに相応しい使い方をしない限り威力を発揮できるはずがない.

なぜ魚にはヒレがあり,それ以外の脊椎動物は足なのか,なぜキリンの首やソウの鼻は長いのか,どうして鳥の前足は翼になってしまったのか.次世代シーケンサーは,そういう,150年前にダーウィンが抱いた根本的な疑問を解決する扉を開いてくれる魔法の鍵なのだ.それを使ってイネしか見ないなんて,宝の持ち腐れも甚だしいと思われ.