3.11,2011

ついに入籍の日である.
朝一番の電車に乗って京都へ向かう...つもりが乗り遅れた.爆
でもつくばエクスプレスと新幹線を乗り継げば京都まで4時間と掛からない.ジョージアにいたときは飛行機だけでも14時間以上掛かったことを思えば,本当に近くなったと,昇ってくる朝日を眺めながら思う.しかし今年の花粉の多さって何なの.

彼女の部屋で一息ついてから,昼食に有喜屋の蕎麦をすすってから,役場に向かう.婚姻届はもちろん,僕の戸籍謄本も準備は万端だ.

入籍の届け出は簡単に済んだ.だが彼女の名前が変わったことで今後必要になる手続きには,新しい戸籍謄本が必要になる.その発行には少し時間が掛かるから待っててくれと言われ,受付の席から立ちあがったときに...

クラッと眩暈のような感覚を覚えた.

今年は花粉症対策に強めのクスリを飲んでるからな...と思ったら,

「いやっ,今揺れたなぁ!?」

と,横にいた見ず知らずのオバハンが話しかけてきた.まさか自分たちに向かって話しかけられたとも思わず,キョトンとしてると,母親からメールが届く.お祝いの言葉かと思いきや,

「仙台震度7.大丈夫か」

は?震度7?すぐに携帯から地震情報を得ようとしてみたが,アカン,全然繋がらん.母親にメールを返す.

「茨城の震度はどーなってる?」

母の返信.

「(母が住んでいる神奈川県の)秦野は4.茨城は?」

こっちが訊いとんねん!

と,突っ込んでいるのも束の間,7と4の間じゃ5か6しかない.入籍した喜びを噛み締める余裕もなく,携帯の地震サイトに何度も接続しようとしてみる.ようやく繋がったとき,示されていた震度は6強だった.ああ,つくばの部屋の食器棚が終わったと思った.実験室もひっくり返ってるだろう.発生時刻はついさっきだ.

「僕らの入籍で世界が揺れたで」

この時点では,まだこんな冗談を言う余裕もあった.上司や研究室の固定電話に電話してみたが,混雑していて繋がるはずもない.メールなら,と思い,とりあえずつくばの同僚たちに「生きてるか?」と送信する.

そうこうしているうちに嫁の文書も発行され,役場を後にした僕らは河原町四条の高島屋へ向かう.今日は指輪も買うことになっているのだ.

だが指輪のショップに行く前に,家電コーナーに向かった.そこならテレビで地震情報を見ることができるだろう.

その家電コーナー.テレビの画面をみて言葉を失った.黒い津波が町を,車を,田畑を,あっという間に飲み込んでいく.こんなことって,あるのか.

映像を見てしまったことを,少し後悔した.こんなものを目の当たりにしたあとで,どういう気分で婚約指輪を買えばいいのか分からなくなってしまったからだ.

軽く思考がマヒした状態で,指輪を予約してあったショップに向かったのだが,店舗内に陳列されている高価な装飾品の数々を見て少し落ち着いた.馴染みの店員さんにさっきテレビで見た津波の様子を話すと,ようやくものが考えられるようになってきた.

「一生忘れられない結婚記念日になってしまいましたね」

店員さんにそう言われて,本当にそうだと思った.本当に沢山の人が大きな不幸に見舞われたに違いないだろうけど,そんな中で幸福への一歩を踏み出す人もいなくちゃいけないだろう,と思うことに決めた.そもそも,もう入籍しちゃってるし.

ブルガリ・デディカータ・ア・ヴェネツィア・ソリテール

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