昨日の話で思い出した

昨日書いた内容でちょこっと触れたフェミニズムという言葉で思い出したことがあるので書いとこ。

今年の初めに参加したとある飲み会で、その飲み会には同じ職場にいたポスドク(♀)も参加してたんだけど、彼女は3月に結婚して退職、そしてこの五月からはドイツに一年間出向するダンナに付いていってるわけなんだが。

で、その場には別の研究機関のポスドク(♂)も同席していて、上記のような彼女の身の上も交えて話していたら。

その男が、「そういうのってどうなの?」と言い出したのである。彼には、女性が結婚して退職する、というのが相当引っ掛かったらしい。いやいや、彼女には一応、ドイツに行ってもポスドクとして雇ってもらえる見込みがあるんでっせ、と言ってもまだ引き下がらない。どうやら、女が男の都合に合わせて仕事を云々するってこと自体が気に入らないらしい。出たよ、フェミニストだ。それも、フェミニストであることによって、自分は女性の味方だと信じ切っているタイプの、♂のフェミニスト。これはタチが悪いぞー。

で、逃げるわけにもいかず、話に付き合っていると、彼の奥さんも博士課程にいたけど、途中で辞めて彼のところにきたらしい。
「そのとき僕は本気で怒ったんですよ、博士は絶対に取るべきだって」
と彼が言うのを聞いたとき、僕が心の底からドン引きしたことは言うまでもない。

どうして彼は奥さんが本当に望んでいることに耳を傾けようとしなかったのだろう。奥さんはもう研究がイヤになったのかも知れないし、本当は博士なんかになりたくなくて、専業主婦としてつましく生きていきたいと思っていたけど、愛する男の望みに合わせて無理をしていただけなのかも知れない。好きな人と一緒にいたかっただけかも知れないし、或いは、自分の恋人の価値観を熟知した上での決断だとしたら、もしかしたら研究室でセクハラやアカハラを受けていたという可能性だって、ゼロではないだろう。そういう可能性を考えてもみようとせず、ただ女性も社会に出て自己実現すべきなんだ、そしてそれを途中で諦めるお前はダメなヤツだなんて言い方をするなんてメチャクチャだろう・・・とは言わなかったけどね。とりあえず、働きたい人は働けばいいし、そうじゃない人は別に働かなくてもいいでしょう、ダンナと一緒に暮らすのがいちばん大事って人はそうすればいいし、仕事優先なら、別居婚でもいいわけで。

ここらで引き下がって欲しかったけど、まあ、やっぱりそうなってはくれないわけで。うーん、そろそろ、彼女が僕と僕の嫁の話をしてくれればいいんだけど、と思ってたら、そうなった。

「ちなみに、内藤さんの奥さんは今度研究でアメリカに行かれるんですよ。大変ですよね。」

「ええっ・・・!?」

彼は完全にショゲてしまって、「僕もね、そういう風になりたかったんですよ」と泣きそうになっている。
僕、大勝利(笑)

…って、そういう話じゃなくて。でも、分かるだろうか。男尊女卑がフツーだった時代、男は「女は結婚したら家に入るべき」といって、女性をある枠組みの中に押し込んでいた。で、彼は彼で「女性は結婚しても社会に出るべき」という枠組みの中に押し込もうとしている。「」の中身が変わっているだけで、男が特定の価値観を女性に押し付けているという構造は全く変わっていない。そして彼は、そのことを全く自覚していないのである。それにしても奥さんの人生を自分が決めてやろうなんて、つくづく傲慢な男である。サイテーだぜ。

ちなみに、彼と奥さんとの間にはもう子供もいるらしい。それでもまだ、彼は奥さんが博士課程を全うしなかったことを嘆いている。何て不幸な男だろうか、と僕は思ったわけである。もし、自分の価値観ではなく、奥さんの視点で考えてみることが出来たなら、奥さんと子供が近くにいることの幸せに、目を向けることもできたかも知れないのにね。