若き日の人生のバイブル

ラッセル幸福論 (岩波文庫)

ラッセル幸福論 (岩波文庫)

この書物こそ、10年前の僕にとっては人生のバイブルだった。実際、過去の日記でもラッセル先生は何度登場したことか。何となく本棚を眺めてたらふと目に付いたので、今日は久々にコイツを読み返してみた。うん、やはりいい。良過ぎて何度も笑ってしまった。

第一に、恋愛はそれ自体歓喜の源である。歓喜は恋愛の最大の価値ではないにせよ、残り全ての価値にとって不可欠なものだ。

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ああ恋よ、お前の甘さが苦いなんて
ずいぶん酷いことを言う輩がいる
お前の熟した果実より甘美なものは
他に何ひとつ、ありはしないのに

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この詩の作者は無名であるが、神の存在や宇宙の謎を解く鍵を探し求めていたのではない。ただ、楽しんでいたのだ。
 第二に、恋愛は音楽、山頂で眺める日の出、満月の光を浴びた海、といったものから享受できる喜びの価値を高めるものだ。愛する人とともに美しいものを堪能したことのない者は、その魔術的な力をあじわうこともないであろう。
 第三に、恋愛は自我の殻を打ち砕いてくれる。恋愛は協力の一つの形であり、互いの感情が、互いの目的を成就するのに欠かせないからだ。世界には、様々な時代に、様々な孤独な哲学者がいた。ある者は、人間は自らの意志のみで、最高の善を実現することができると信じていた。またある者は権力こそが人生の目的であるとみなし、さらに別のものは単に個人的な快楽を求めるだけであった。いずれにしても、これらの哲学は全て、善というものが一人の人間個人の中で実現されうるものだと考えている点において、間違ったものである。
 人間は協力に依存している。そして恋愛は、協力を生み出す感情の第一の、そして最も一般的な形である。一度でも深く愛したことのある人ならば、自分の最高の幸福が、愛する人の幸福とは無縁であるとするような哲学には満足できないだろう――