ラッセルの幸福論・被害妄想①

誰かが自分の悪口を言っていることを知った際に、多くの人が取る態度は不合理である。知人について、ときには友人についてさえ、意地悪い評を下さずにいられるひとは実に少ない。そのくせ、人は誰かが自分の悪口を言っていたと聞かされると、怒りと驚きでいっぱいになる。彼が他の全ての人々にことを噂するのと同じように、他の全ての人々もまた彼の噂をするということを、彼は考えたこともないらしい。
 あなたは、友人たちは欠点はあるものの、全体としては人好きのする、感じのいい人たちであることを知っている。しかし、彼らが自分に対して同じ態度を取るのは、あなたには耐えられないらしい。それはあなたが友人たちに、あなたには欠点などないと思ってくれることを期待しているからだ。
 我々は、自分に欠点があることを認めなければならないとき、この明白な事実を深刻に考え過ぎる。人間が完全であることを期待すべきではないし、また完全でないからといって不当に悩むべきではない。

これ面白いよね。ラッセルは人の悪口を控えるべきとは一言も言ってない。そんなの不可能だから、逆のこと、つまり「人に何か言われても気にするな」と言っているわけだ。他人のことは勝手に評しておいて、自分が評されると冷静でいられなくなってしまうのは、この上もなく不合理だと。