なんでそうなった

学会で知り合った若手の中に、優秀な奴がいた。彼が学生の頃から知っていたんだけど、地方の県立大で学部から博士まで貫いた珍しい奴だけど、Plant Cellに筆頭で論文書いたりするような、デキる男だった。

で、彼がD3のときに久しぶりにコンタクトを取ってみると、アカデミアには残りたいけどポストはないし、ちょうど民間企業から内定ももらっているので就職します、という返事。ああ、勿体無いなーと思っていたら、その一ヶ月後くらいにどういう経緯でか、とある国立大の特任助教のポストに採用されることに決まりました!というメールが来た。任期付ですが、アカデミアに残れると決まったからには、これからはこういう研究をやってみるつもりです!という彼の文章からは、興奮している様子がありありと伝わってきた。そのテーマが当時の僕の研究テーマと関連するものだったこともあって、これはとんだライバルが現れたもんだと思った。

ところがしかし、彼と、彼の上司であるそのラボの教授とは全く反りが合わなかったらしい。教授は彼の研究テーマを全く認めず、自分がやってるテーマ以外は一切ダメだ、と譲らなかったらしい。1年後、学会で彼に「去年メールで話してたあの計画はどーなったん?」と聞いてみると、彼は「いやー、これっぽっちも手を付けられてないんですよ。。。あの人は何で僕を採用したんですかねぇ…?」というよなことを言う。おや、と思いつつも「まあそういう人はいるし、人生にはそういう状況も必ずあるわな。でもお前の実力があったらその辺も何とかなるって。オレは期待してるぞ」と励ましてはいたんだが。。。

それが、去年だったっけなー。最近アイツ学会に出てこないなーと思ってたら、メールが届いた。開けてみると「色々考えていましたが、今月いっぱいで辞職することにしました。今までありがとうございました」と書かれている。あまりにも驚いたので直ぐに電話をした。

「お前、一昨年はアカデミアに残れるっつってあんだけ喜んでたやん。それを捨ててどないするちゅーんや!?」
「凄く未練はあるんですが。。。どうしても耐えられなかったんですよ。。。でも次の仕事でも絶対内藤さんと絡んだりする機会があると思うんで、よろしくお願いします!」
「マジか。。。残念でならんな。。。」

彼のような優秀な若手が学会から消えてしまうのは大きな損失だと思った。彼を辞職に追い込んだ融通の利かない教授に対しては怒りさえ覚えた。

ところが先週、この出来事に関する思わぬ顛末を聞いた。彼を辞職に追い込んだその教授の方が、部下に辞職されたことに衝撃を受けて体調を崩してしまい、大学にも出てこれない状態になってしまっていると言うのだ。

唖然としてしまった。その教授にとっては絶対に譲れないほど大切な研究だったはずなのに、拘り過ぎて部下を失い、そしてそのショックでご本人まで休職してしまったら、元も子もあらへんやん。。。教授ご本人も、若くして教授になった、学会では気鋭の存在として知られている人だったのになぁ。。。

2人の優秀な研究者が、それぞれ自分の考えに固執した挙句、2人とも爆死。研究室が丸ごと崩壊したわけだ。

僕はこの話にどう始末を付けていいのか分からない。今後の教訓にすることくらいは出来るんだろうけどね。。。手に入れられる以上のものを得ようとすれば、全てを失う羽目になる。。。とでも言おうか。全く、虚しい話だ。