実験

やっと,やっとマトモな結果が出たのである.こっちで始めた新しい実験手法をマスターするのに,結局三週間以上かかったワケだ.はー,長かった.

大学4年の時に絶対に忘れないようにしよう,と決めた事がある.

俺の研究生活のスタートは散々であった.三ヶ月以上何をどうやっても全くウマくいかなかったのである.自分はこの分野に才能がないのではないかと思うこと甚だしかったのは言うまでもない.
ある晩も実験に失敗して「またやり直しかー.今夜も遅くなるなあ」と一人ごちながら,
「世の中にはこんな苦労せずに,イッパツで結果を出せる人間もいるであろうに,俺は…」
とまあ何とも情けない思いを抱いたのであるが,次の瞬間,自分の中にメラメラと燃えるものを感じたのである.
もともと自分は才能あふれた一握りの人間ではない筈だ.確かにいとも簡単に結果を出す人間は尊敬されるだろうが,自分が実験するのは他人から尊敬されるためではない.この世界で成功するのにまず必要なのは,他人から才能溢れる人間だと尊敬されることではなく,結果を出すこと,結果を出せる人間だと信用されることだ.自分が他人の半分しか才能が無いならそれでもいい.代わりに人の二倍実験すればいいワケだろう?
結果,大学四年の三月には学会で発表することが出来たのである.(学部生のうちに学会発表出来る人間は少ないのですよ,念のため)
以上,泥臭くて暑苦しいので読んでくれた人には申し訳ないが,これが俺の支えなんである.終わり.