vol.9

一旦失った信用を取り戻すのは,ゼロから構築するよりも難しい.それも,遥かに…


彼女には,それから二回,手紙を出した.しかし反応は返ってこなかった.


結局事態は,ワタクシの存在の小ささを否応なしに認識させる形で落ち着いた.当時仙台にいた予備校仲間の1人が,それ以降彼女の話し相手を務め,彼女の日常はその後も変わりなく動いていった.ただ,彼女にとってワタクシが「向こう側」の人間になっただけだった.


死んだアイツの代わりはいない.だけど自分の代わりなら,いくらでもいる――


彼が死んでから一年間,ずっと彼女の話し相手を務めてきた.自分が彼女を救えるとは思わなかったが,それでも少しは彼女にとって重要な役割を果たしてきたつもりだった.だが所詮はそれも,自尊心の思い上がりに過ぎなかったのか.いや,思い上がっていたからこそ,ワタクシは彼女にとって信頼できる相手とはなり得なかったのだろう.


彼女のことは気にかかった.だが,もう二度と彼女は自分を許さないだろう,と思った.時がたてば解決はするのだろう.だがそれは,時と共に,お互いの存在を忘れていくということによって――


時は流れた.彼女のことは,仙台にいる友人が時々メールを流してくれた.彼女は無事医師国家試験に合格し,京大病院の小児科で研修医をやるようになった.彼を失くした傷がどうなったのかまでは分からない.だが無事に生活を送っているようだった.


だが,2004年の夏のある日.既にワタクシはアメリカに渡っていたが,そこで受け取った友人からのメールを見て,ワタクシは血の気が引いた.

彼女のお母様が七夕の日に亡くなられたそうです。

彼女の両親は彼女が幼い頃に離婚していて,他に兄弟もいない.彼女にとって母親は,唯一の肉親だった.


数奇な運命――
他に何も,頭に浮かばなかった.
…続く