オトシタカケラ

消えぬ傷,過ぎない時間

Tがオーストラリアを旅行中に事故死してから,八年が過ぎた.そのTと当時付き合っていたMは,僕らが青春を謳歌した予備校時代の大切な仲間だ.先日,Mが出産したらしい.だが,僕は素直に喜ぶことが出来ない.Mは,入籍していないのだ.別に,父親がい…

ハッピー「エンド」なんて言うんじゃない.

昨日,「彼女」からメールが来た.いちおー本人の許可をとったので転載したいと思う. ところで、”おとしたかけら”読んだで。私もしんどかったけど、健君もいろいろ考えてたんやね。なーんか感動した と言われて素直に喜んでいるワタクシ.書かれた人間にと…

vol.17

「あの車」 そう彼女が指差した車の横に,ワタクシも駐車する.ワレワレが車から降りると同時に,向こうも出てきた. 彼を一目見るなり,ワタクシは安心した.外見だけでその人の全てが分かるなどとは思ってないが,人間大人になってくれば,その内面が外に…

vol.16

静岡駅はICからは遠いから,ということで,彼女の彼氏にはIC付近のコンビニまで来て貰うことになった.と,左手にローソンが見えてきたので迷わず入る.彼女が電話をして,このローソンのロケーションを伝える.…と,道を挟んだ反対側の,約50m程しか離れ…

vol.15

一昨日の同窓会に彼女が来なかったのは理由を,彼女は正直に言った. 「前の日に誰が参加するのか聞いてんけど,あのメンバーやったら別に行きたくなかったし…そやから彼にやっぱり行かんわって言うてん」 「そうか.」別にワタクシはもう驚きもしなければシ…

vol.14

そして31日.大晦日.朝から雪が降っていた. 静岡までのドライブに仙台の友人も同行することになったので,JRのとある駅に集合することにした.ワタクシも友人も時間までに到着していたのだが,彼女からは遅れますメール.それを見て思わず苦笑した.そう…

vol.13

翌30日.ワタクシが携帯のディスプレイと何度も向き合い,考えあぐねているうちに,日が沈んだ.彼女の連絡先は分かった.彼女が過去のことにはもはやそれほど拘っていないことも,友人から聞いた.だがあれから4年半.一体どうやって連絡すればいいのだろ…

vol.12

同窓会の日取りは,12月の29日と決まった.彼女のカムバックを喜んでみんな来たがったが,結局その日に都合を付けることができたのは,彼女を含めて6人だった.予備校仲間の半数は多忙を極める研修医だから,仕方がない. そして当日.ワタクシは緊張しなが…

vol.11

彼女との友情はもう過去のことにするしかない….そう考えることにしてから数ヶ月が経った,11月のある日.また仙台の友人からメールが届いた. メールは,彼が夏に彼女に会った時の様子から始まっていた.研修医としての一年目は環境にも同僚にも恵まれてい…

vol.10

彼女と連絡を取りたい,という気持ちが,すぐに起こった.だが,あれから既に4年.お互い連絡先は変わってしまっている.仙台の友人に,彼女の連絡先を教えてくれ,と頼んでみたが, 「前にメールで流したぞ」 しかしワタクシは渡米前にPCを新調しており…

vol.9

一旦失った信用を取り戻すのは,ゼロから構築するよりも難しい.それも,遥かに… 彼女には,それから二回,手紙を出した.しかし反応は返ってこなかった. 結局事態は,ワタクシの存在の小ささを否応なしに認識させる形で落ち着いた.当時仙台にいた予備校仲…

vol.8

予備校時代の仲間内では,何度も彼女について話し合う機会があった.ワタクシの意見は,葬式の晩に自分達が彼女を自然に受け容れるということをしなかったこと,それによって彼女の自分たちへの信用を失ったこと,そして今後彼女のことを気に掛けるならば,…

vol.7

では,新潟の友人宅での出来事は,どうして起こってしまったのだろうか.当たり前すぎることだが,まずワタクシが新潟で三人落ち合おう,という誘いを掛けたからである.では,ワタクシはなぜ,彼女を他の予備校仲間に会わせたかったのだろうか.それは,彼…

vol.7

彼女と我々との間に生じた亀裂の原因は何なのだろうか. まず何よりも,失ったものの大きさが違った.何よりも大切なものを失った者と,いくら仲が良かったとはいえ,今では年に2,3回会うか会わないかの友人をなくした者との違い.お互いの気持ちを理解し…

vol.6

ワタクシは,頭を抱えていた.どうすれば,よかったのだろう.アイツの死によって,ワタクシもまた彼女と同じように苦しんでいなければならなかったのだろうか.或いは,他の予備校仲間たちとの付き合いを控えておけばよかったのだろうか.それとも,もし彼…

vol.5

そして九月のある日,その新潟の友人宅に3人が集合した.ワタクシは電車で,彼女はバイクで.回転寿司で一緒に晩御飯を済ませるまでは良かった.しかしその後,友人宅に戻って酒を飲みながらした話が,いけなかった. 彼女は,次の日もまたバイクで青森まで…

vol.4

そうこうしているうちに一年が過ぎた.彼女に昔のような明るさが戻ってきたわけではなかったが,それでも時々笑うようにはなった.ある夏の日,一緒にリュック=ベッソンの「ジャンヌ=ダルク」を観に行った.この映画の最後で主人公は火炙りの刑に処されるの…

vol.3

実際,彼女は予備校時代の仲間の多くがもう信用できない,という意味の言葉を口にした.ワタクシは悲しく,そして寂しくなった.集まれば必ず楽しいことになるはずだった仲間.そのうちの1人は既に二度と戻れない所へ逝ってしまった.そしてワタクシらは,…

vol.2

死んだ友人の葬式から一ヶ月か,二ヶ月くらい過ぎた頃だろうか.ある秋の夜のことだった.ワタクシの下宿の電話が鳴った.出ると,彼女だった. 「京都に帰ってんねんけど…」 彼女が通う大学は,青森県の弘前で,しかもそのときは休みでも何でもない時期であ…

 vol.1

浪人時代,男女混合十数名の仲良しグループができた.彼らのオカゲで,浪人した一年間は本当に楽しい,思い出深いものとなった. しかしめでたく大学に合格してから二年半が過ぎようとしていた頃…そう,忘れもしない1999年8月24日.そのグループの中心にいた…