vol.16

静岡駅はICからは遠いから,ということで,彼女の彼氏にはIC付近のコンビニまで来て貰うことになった.と,左手にローソンが見えてきたので迷わず入る.彼女が電話をして,このローソンのロケーションを伝える.…と,道を挟んだ反対側の,約50m程しか離れていないところにもう1件ローソンがある.「ややこしいな…まあ致命的な問題でもないからいいけど」
ローソンでタバコとコーヒーと栄養ドリンクを買い,店の外で彼氏の登場を待つ.と,友人が「金おろして来るわ」と言って,こっちのローソンとあっちのローソンの間にあった郵便局へ走っていった.


言うならこのタイミングかな,と思った.新潟での出来事から,もしかしたら五年前のアイツの葬式以来,ずっと気に掛かっていた.友達.信用.人生.死.沢山のことを何度も何度も繰り返し考えて,なのに結局過ちを犯して,何の力にもなれなくて….その全てを込めた,たったひとつの,言葉を.


「悪かったな…」


「え?なんて?」
今度は目を見て,言った.


「悪かったよ,今まで」


彼女は一瞬きょとんとした表情を見せたが,すぐにその後,
「もぉ,ちょっと,何言うてんのよぉ!!」
と,照れくさそうに笑いながら,ワタクシを肘で突き飛ばした.自分もつられて笑いそうになる.だが,そこはぐっと堪えて,言った.


「それだけは伝えておきたかってん」


「そんなん…そんなん言うたら…アタシだって….ごめんな」
「いや…」


お前のせいじゃない――


ワタクシがそう思ったと同時に,彼女が言った.


「仲良くしような」
「おう….これから,また,よろしくな」


お互いにそう言った後,しばらく黙っていたが,ワタクシはこみ上げてくる笑いを堪えられなくなってきた.彼女も同じだったらしい.お互いを横目で見ながら
「ふふ」
「へへへ」
とクスクス笑っているところへ,金を下ろした友人が戻ってきた.彼には事態が全く飲み込めない.
「え?あ?えと,な,何があったんですかここは?」
ワタクシと彼女は声を揃えて,言った


「ヒミツ〜」


そこへ,丁度良いタイミングで彼女の携帯が鳴った.
「彼氏が着いたって言ってるねんけど…」
こちらのローソンにはそのような形跡は全く見られない.ああ,やっぱり.彼氏はあちら側のローソンに行ってしまったのだった.
「いいよ,じゃあアッチまで行こうぜ.彼氏にはそこで待ってもうといて」
と再び車に乗り込み,50m先のローソンへ向かう.車の中で彼女は照れ笑いをしながら
「えー,だって恥ずかしいやん?恥ずかしくない?」
を連発する.
「ううん,オレは全然♪ほれ,着いたぞ」
…続く