vol.13

翌30日.ワタクシが携帯のディスプレイと何度も向き合い,考えあぐねているうちに,日が沈んだ.彼女の連絡先は分かった.彼女が過去のことにはもはやそれほど拘っていないことも,友人から聞いた.だがあれから4年半.一体どうやって連絡すればいいのだろうか.ましてや研修医として忙しい日を送る中,わざわざ自分の働きかけにレスを返してくれるのだろうか….
だが何にせよ,何よりも彼女に伝えたいのは,「自分が間違っていた」ということだ.それを伝えようとするのなら,少なくとも電話であった方がいい.それでメールには簡単にこう打ち込んだ.


「けんだけど.何時でもいい,電話できないか」


打ち終わって,躊躇する.このまま送信ボタンを押してもいいのか?別に何もしなくたって,お前は今まで通りの生活を楽しめるんだぞ?


頭を振って,その疑問をすぐに打ち消す.仮に何の反応がなくても,今更何かを失うわけではない.でも何かを変えようとするならば,このメールを送らなければ始まらない――


思い切って,親指に力を入れた.


5分もしないうちに返事がきた.緊張しながら内容を確認する.

今買い物中.どしたん?

どうしたもこうしたも….拍子抜けするような自然な返事.少なくとも拒絶されるようなことはなかったわけだ.とりあえず今の時間は大丈夫らしい.今度は電話を入れた.


もしもし…?


いくらメールが自然に返って来たとはいえ,それで空白の時間が消えたわけではない.4年半振りの会話に漂う空気は堅かった.「今…何してるん?」


「今,休みで帰ってて…京都で買い物してる」


え?帰ってる?昨日は仕事の都合で来れなくなったんだと思ってた.だからてっきり静岡にいると思ってたのだが….いずれにしても,今京都にいるのなら,会って話すことはできないのだろうか.そう思った瞬間,彼女は言った.


「んで,明日静岡に帰るねんけど…」


「え…ああそうなん?それやったら…」
他にいい方法なんて考えられなかった.
「それやったら…おく…ろうか?」
途端に彼女の声の調子が変わった.
「え?え?なんて?」
一気に氷が溶けた.両肩から力が抜けるのを感じた.
「お前さえ良かったら,車で送らせてもらうけど,どうよ?」
「ほんまに?ほんまに?そんなん言われたら,アタシ甘えてしまうで?」
「構わんて.そしたら少なくとも何時間かは,お前と話ができるわけやろ?」
じゃあ,明日,10時に迎えにいく――.そう言って電話を切った.今の状況が信じられなかった.自分は本当に,また彼女と友達に戻れるのか?本当に,信じられなかった.
…続く