vol.17

「あの車」
そう彼女が指差した車の横に,ワタクシも駐車する.ワレワレが車から降りると同時に,向こうも出てきた.
彼を一目見るなり,ワタクシは安心した.外見だけでその人の全てが分かるなどとは思ってないが,人間大人になってくれば,その内面が外に表れてくるものだ.「彼」からは,明らかに感じられたのだ.真面目さと,優しさと,そして温かさと.
心の中ではそう思いながらも,外面的にはただ,ひたすらにハイテンションだった.
「あ,どーも初めましてぇ!!すんませんねえ,貴重なデートの時間を大幅に削らしてしもて」
そんなワタクシのテンションに少し戸惑った様子だったが,
「いやいや…どうもわざわざ,お疲れ様でした」
と,彼はにこにこしながら言った.


この人なら,大丈夫だな――


本当は,少し話をしてみたかった.でも今日は,これ以上は野暮というものだ.
「ほな,もう行きますんで.コイツのこと,よろしくお願いしますー.おう,行くで」
そう言って友人と再び車に乗り込む.窓を開けて振り返り,
「じゃあな」
と言って彼女を見ると,そこには子供みたいに陽気な笑顔があった.彼氏を友人に紹介したという照れもあったとは思う.だが五年前のあの日,彼女が再びあんな風に笑う姿を,誰が想像できただろう….それを思うと,たまらなく嬉しかった.


これでもうすっかり安心だ,というわけではないだろう.五年前に彼女が受けた傷も,昨夏に母親を亡くして受けた打撃も,当分は彼女を苦しめるだろう.だが彼なら,それを全て受け止めてやってくれそうな気がする.よかった.本当に,よかった.


行きは大荒れの天候だったのが,帰り道は西の空の雲が切れて晴れ間が広がり,美しい夕焼けが視界を包むという最高の演出だった.その夕焼けの空に向かって運転しながら,ワタクシはある友人の言葉を思い出していた.


人の笑顔を見ていた方が,安心できるんです――


その言葉と,彼女の笑顔を,何度も,何度も,反芻していた.
<完>