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しかし電話の向こうから伝わってくる彼女の雰囲気は,相変わらず戸惑いを帯びていた.


どうして――


あの時の彼女の言葉が本当ならば,彼女は同情してくれなければならなかった.二年前,「自分のことのように嬉しい」と言ってくれたように,今度は一緒に悲しんでくれなければならなかった.やっぱり自分にとって彼女は欠かせない存在だと,思わせてくれなければならなかった.


あの時,キミは言ったじゃないか――


そう言い掛けて,はっと気付いた.


伯母と,同じ――?


少し前まで,確かにワタクシと彼女は互いに信頼できる間柄だった.だが今,ワタクシはその過去の関係を,過去の言葉を理由にして,彼女にすがろうとしている.その自分の行動が,内藤家に嫁に入ったからと言って,ずっと母をその立場に縛りつけようとする伯母と,構造的に何も変わらないことに気が付いたのだ.


父がいなくなり,Mさんが現れて,母の未来に内藤家は必要なくなった.母にとって,伯母や祖母達と助け合うこと,協力し合うことは,希望を見出せるものではないのだ.その母に,家や社会契約や父の遺言を振りかざす伯母達は,母に自分の幸福を犠牲にさせ,形だけ整えて納得しようとしているに過ぎなかった.ワタクシもまた,同じ.彼女の描いている未来には,自分は登場しない.必要ない.要するに,利害が一致しないのだ.


泣いた.寂しかったからでも,悲しかったからでもない.ただ,自分が情けなかった.誰かに認めてもらえなければ,誰かに受け容れてもらえなければ,生きている価値も意味もないと,そう思っていた自分が,情けなくて堪らなかったのだ.


二度と,戻ってこない――


泣きながら,過去の日々を思い出した.温かかったこの家も.彼女と真摯に言葉を交わした日々も,絶対に戻っては来ない.


だから,どうした――


生きることに,意味も価値も必要ない.帰るところが無くなったって,心の拠り所が無くなったって,生きていくことはできる筈だ.そして生きようとするのなら…


先のことを,考えろ――


自分の中の,どこかから,少し力が湧いてくる気がした.停止していた思考が,動き出すのを感じた.

…続く